#006 変質者だ!!

「原始的な農村って感じだな……」


 村はちょっとした丘陵のふもと付近にあった。たぶん、水源や日当たり的に都合が良かったのだろう。あるいは戦略的な意味も、あったりなかったり?


「すいません!」

「……? ……??」


 第一村人発見。さっそく話しかけてみたが、やはり言葉が通じない。しかしながら村人の容姿は、人間とほぼ同じ。鼻が高く掘りも深いことから西洋人って感じだ。もしかしたら、俺以外にもこの世界に迷い込む人は居て、起源は同じなのかも。


「頼む、ニノ」

『ん!』


 ニノに通訳を任せる。設定は決まっていて、俺は極東から来た旅人で、盗賊に身ぐるみ剥がされてしまったので身分証明はできず、お金もない。


「あ、あれ??」


 これからってところで、村人が逃げていった。視界に入っただけで魔物バトルを挑まれる好戦的な世界観で無かっただけマシだが、この反応はちょっと怖い。最悪、オーク呼ばわりされて袋叩きって可能性も考えられる。





 ほどなくして、村長と思われるハゲたオジサンが、軽く武装した兵士っぽい2人を連れてやってきた。


『異国人よ、名を聞こう』

「え? 言葉が……。いや、礼です! 名前はレイで、家名はモチヅキ」


 いきなり言葉が通じて面食らったが、すぐにニノと同じ原理だと気づけた。見れば村長は、水晶玉がついた杖に手をかざしている。たぶん、翻訳魔法的なのを発動させているのだろう。


『『!!!?』』

『そ、そうですか。それでは、失礼ですが"紋章"を、見せてください』

「いや、それが、道中で賊に…………って! いや、だから、敵意は無いので」


 兵士が剣を抜き、空気が張りつめる。警戒を通り越して、地雷を踏み抜いた感じだ。


『異国の"お貴族様"が、なぜ、このような場所に?』


 なるほど、警戒されている理由は『家名を名乗ったから』。この国では、平民は家名を持たないのだろう。つまり家名持ちと言う事は位の高い人物であり、『亡命してきた敵国の貴族』とでも思われたのだろう。


「失礼しました! 自分は平民です。ただ、生まれた土地の習慣で、誰の子か名乗る決まりがありまして」

『『…………』』


 いちおう、俺が異世界転移者だって告白する手もあるが、(王様に召喚された勇者ならまだしも)俺は何のチートももたない一般転移者。魔王討伐や国家間の戦争に巻き込まれてもすぐ死ぬ自信があるし、何より殺し合いに興味はない。地球に戻れるなら戻りたいし、戻れないなら人並みの幸せ、欲を言えば異世界スローライフが実現出来たら最高ってくらいだ。


『なるほど、翻訳魔法の不都合があったようですね』


 セーフ! さっきの雰囲気からしても、この世界に国家間や地位による問題があるのは明らか。身ぐるみはがされた旅人設定は続行だ。


「そうです。自分はただの旅人で……」

『その前に、身体検査をさせて貰います』

「あ、えぇ、どうぞ」


 それはそうだ。不審者には、まず身体チェック。しかし、何か忘れている気が……。


『なっ! コイツ、裸です!!』

『注意しろ! 変質者だ!!』

「そうでした!!」




 こうして俺は、わいせつ物陳列罪で見事、前科一犯となった。

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