#004 等価交換の法則って、知ってる?

「そういえばオマエ、名前はあるのか?」

『??』


 目ぼしいものを回収し、相棒2号を肩に乗せて、いったん倒したウルフのところまで戻る。


「固有名の概念が無いのか? 俺の種族名は人間で、固有名、つまり人間の中での呼び名はれいになる」

『レイ』

「そうだ。2人の時はオマエとかご主人様でもいいけど、同種族がいっぱい居るところで、みんながオマエとかで呼び合っていたら区別がつかないだろう?」

『うん』


 やはりこの獣は頭がいい。理解できない部分もあるが、何なら俺の<情報参照>の方が意味不明だ。


「てことでそうだなぁ…………相棒2号だから、ニーナ、ニーア、ニノ。そうだな、ニノなんてどうだ?」

『うん!』


 顔を首筋に擦り寄せてくるニノ。我ながら安直なネーミングではあるが、ひとまず気に入ってくれたようだ。


「そうだ。すっかり忘れていたけど…………おぉ、追加されている」

『??』


・眷属:ニノ レベル5

体 力 :40

魔 力 :38

筋 力 :22

防御力:19

理 力 :48

精 神 :56

敏 捷 :65+3

技 能 :18


「おぉ、オマエ、じゃなかったニノ。ステータス、高かったんだな」

『そう?』


 俺の<情報参照>には、元の身体能力は反映されない。そのためニノの場合は、元の能力値が低い代わりに魔力的な補正値が高いのかもしれない。というか、そうとでも考えないとテレパシーで会話できる説明がつかない。


「まぁ、俺も比較対象が…………ん? +3って、もしかして」


 俺のステータスは現在、敏捷を30のみ強化している。そして俺の数値にマイナスはない。これは眷属になったことでニノの能力が強化されたと推測できる。


「まぁ、モノは試しだ」


 ウルフを倒して得たポイントを、魔力と理力と精神に10ずつ割り振る。するとニノのステータスは、対応した部分が+1された。


「おぉ、アタリだった。しかし、どういう仕組みだよ。等価交換の法則って、知ってる?」

『しらない』

「ごめん、独り言です」

『??』


 いや、考えてみたら数字の帳尻を合わせる考え方の方がゲーム的だ。何せ能力を『奪う』事と『移す』事と『組み込む』事を、同時におこなうのだから。それなら単純に『ニノが成長した』と考えるのが妥当だろう。


「まぁいいや。これ以上はピース不足。考えるだけ無駄。それよりも…………"アレ"だ」


 ウルフの死体は、すでに大半が朽ち、体も小さくなっているように見える。


『魔力、抜けた』

「魔力か。ようするに、風船みたいなものか」


 命は風船の膜で、魔力が中のヘリウムガスと考えれば、死んでソレが放出され、急速に崩壊したのも納得できる。


「それより…………て、毛皮は、ダメか」

『ボロボロ』

「肉は、まぁ、ちょっとは食えそうか」


 拾った剣で、使えそうな部位を回収していく。


 俺は田舎育ちで、このくらいの解体作業なら朝飯前。都会暮らしには分からないだろうが、田舎だと野生動物に遭遇して、それを駆除して食す機会はそれなりにある。


 いや、野生どころか、半分ペットとして可愛がっていた家畜を食べたことだってある。だから血や動物の死体は平気だし、絞めるころす事に過剰な嫌悪感を抱く事もない。


「まぁ、こんなもんか」


 牙と状態の良かったモモ肉を切り出し、剣に突き刺して肩にかつぐ。ちなみに剣の切れ味は恐ろしく悪く、刃をあてた程度では切れる気配は無い。剣というか、デカい串って感じだ。


「これで、晩飯は確保できたな。ん? そうだニノ、これ食べるか??」


 俺はこのまま吊るして血を抜き、しっかり焼いて食べる予定だが、『野生動物は血抜きしていない肉の方がいい』と何処かで聞いた覚えがある。


『……いらない』

「いらない、か。ん? ニノ! おまえ、なんか小さくなっていないか??」




 肩が軽いと言うか、なんだかシックリくるなと思ったら。ニノの体が小さくなっていた。

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