#003 〇ァミチキください
「間に合わなかったか」
ウルフが向かった先には、壊れた馬車と森に引きずり込まれたであろう血痕。俺が見逃されたのは、1体を倒したのもあるのだろうが…………充分な
「この出血量なら、確実に死んでいるか。せめて、楽に逝ってくれ」
森に向かって手を合わせる。被害者(人間以外。エルフや、それこそゴブリンの可能性もあるが)には何の思い入れも無いが、これから俺はウルフの"お零れ"にあずかるので、敬意くらいは示しておく。
「代わりなんてつもりは無いが、生きていくために、使わせてもらうよ」
さっそく馬車を漁る。落ちていた剣は2本。あとは座席に鞄があったが、お金や食料などは無かった。たぶん金目のものは服の中にでも隠していたのだろう。
「あとは、荷台か……」
「「…………」」
「あっ、どうも」
荷台に被せられた帆をあけると、そこには檻に捕らわれた美少女…………ではなく、白い獣が居た。キツネは何度も見たが、これはそれとも微妙に違う。なんというか、キツネとヒョウとオコジョの良いトコ取りって感じだ。
「わざわざ隠して運ぶって事は、密猟だよな? 逃がしてやりたいが…………そこらに解き放っていいものか」
檻は施錠されているが、その鍵は鞄の中にあった。顎の構造から推測するに、普段は木の実や虫を食べている雑食。成長したら分からないが、とりあえず現状の状態で人を捕食するのは不可能だろう。
まぁ、放してやれば逃げていくだろうが、この世界の生態系がサッパリ分からん。
「………………」
「しかし大人しいな。鳴かない系か、あるいは相当弱っているのか。とりあえず…………おっ! って、ほとんど空じゃないか!」
水筒らしき革袋を見つけたが、ほんとうに数滴の水しか入っていなかった。水筒じたいは使えそうなので貰うとして、ほかに食べ物らしきものは無し。ウルフにもっていかれたか、あるいは何か無理してでもこの獣を運ばなければならなかったのか。
「つか、服だよ! まぁとりあえず、この帆でいいか」
とりあえずマントっぽく羽織ってみる。かなり大きいが、昔のアニメの主人公の登場シーンみたいで、ちょっとワクワクしてしまった。
「オマエ、言葉はわかるか? このまま檻の中で餓死するのも嫌だろ? 俺に、着いてくるか??」
そこまで頭がいいかは分からないが、とりあえず聞いてみた。つか俺、犬猫でも普通に話しかけるし。
『……聞こえる?』
「おぉ、なんだ、頭に直接? これが噂の、〇ァミチキくださいなのか!?」
テレパシーってやつだろうか? 声と言うか、イメージが流れ込んできた。
『すごく、不思議な色』
「ん? 色??」
イメージの会話は、何というか機械翻訳のようで、微妙に理解できない部分がある。
『出して』
「あぁ、そのつもりだが……」
『血』
「血ィ!?」
ダメだ、この翻訳、たぶんクソ翻訳だ。
「「…………」」
「これでイイか?」
体はすでに傷だらけ。せっかくなので出血している手を差し出してみる。
『うん。……じゃあ欲しいもの、教えて』
「え? あぁ…………"相棒"かな? さっきウルフと戦って、失っちまったんだよ」
なんかもう、どうでもよくなってきた。さっさと放して、逃げなければ面倒を見る。逃げられたら…………知らん!!
『……じゃあ、それで』
「はいはい。今、出してやるからな。……ほいっと。おぉ、やっぱり、可愛いな」
鍵をあけ、獣を抱きかかえる。たぶん魔物の一種なのだろうが、大人しくて頭もいい。これなら密猟されるのも頷ける。
『よろしく、ご主人様』
「へ??」
――――眷属が追加されました――――
こうして、あらたな相棒が仲間に加わった。
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