#002 俺、結婚する予定なんだ
「くそっ、あの野郎、安全だって言ったのに!」
「完全にハメられた。馬車が壊れたのも、きっと細工されていたんだ」
商人2人が、馬を失った馬車をおりて剣をかまえる。
「どうする、このままじゃ」
「どうするも何も! やるしかないだろう。とりあえずウルフを倒して……」
「いっそ"ブツ"を放って戦わせないか?」
「はぁ!? んなことしたって敵が増えるだけだろ!」
「それもそうか」
木々の陰から狼の魔物・ウルフが姿をあらわす。
「じつは俺、結婚する予定なんだ」
「はぁ!? なんだよ、聞いてねえぞ!!」
「上手くいく保証が無かったからな。空振りだったら、カッコつかないだろ?」
「ッチ! 実は俺も、行商を引退して店を持つつもりだったんだ」
「なんだよ、お互いさまじゃねぇか!」
「だな」
軽口を叩いて笑い合う2人。しかしウルフの強さは、武装した成人男性1人と互角。対するウルフは少なくとも4体。この魔物は連携も上手いことから、まず勝ち目は無いだろう。
*
「おぉ! 道だ」
音の方へ向かうと、未舗装ではあるが、それでも車が通れるほどの道にでた。
「問題は、どっちが正解か、だよな」
そもそも音の発生源がココであっているかも分からない。こうなったら当てずっぽうで進む方向を決めなければならないのだが…………ここで選択を間違えれば、野生動物に怯えながらの野宿もありえる。
「相棒、どっちだと思う?」
「…………」
手にした石に語り掛けてみたが、返事は無し。無口で頑固なヤツだが、これでも唯一の所持品であり、攻撃力は地味に高い。
「Gurururururuu……」
「相棒、お前じゃないよな?」
うん。なんか目の前に、狼がいる。
「あの、見逃して、貰えないでしょうか?」
「「Grrruuu……」」
「ダメそうですね」
そして挟まれた。見えているのは2体だが、もしかしたら仲間や、群れのボス的なヤツが隠れている可能性もあるだろう。
「相棒、覚悟はいいか」
こういう時、背中を見せて逃げるのは悪手。この手の動物は、なまじ頭がいいのでハッタリが有効だったりする。……たぶん。
「使うか…………ここで」
現在、使用可能なスキルポイントは、途中で見つけたスライムの分も合わせて30。問題は、8つの項目にどう割り振るかだが……。
「フッ! らしくないな。こんなの、いくら考えたって結局、運ゲーじゃないか」
「「Uuuuu……」」
「先手、必勝!!」
「kyuuu!?」
ポイントをすべて敏捷に振り、全力で狼に突進する。
俺の足は物理法則を無視する加速を見せ、一瞬で相棒を畜生の頭部へと届ける。
「やっぱり、喧嘩は
「Gruuuuu……」
――――ウルフを倒しました。獲得経験値30をステータスポイントに変換します――――
「なんだ、スライム3体分って、経験値配分クソすぎだろ」
一撃で倒せこそしたが、無抵抗の単細胞生物3体分と釣り合うとは到底思えない。もしかしたら経験値ってのは強さではなく、種族や魔法的な何かで決まるものなのかもしれない。
「Auuuuuu!!」
「guu!!」
「ちょっ!」
すこし離れたところから遠吠えが聞こえ、残りの一体が駆けだす。これは…………仲間に呼ばれた??
「ん~~。虎穴に入らざれば虎子を得ず、だったか」
狼ではなくウルフだったか? 安全なのは反対方向に行く選択なんだろうが…………気になるのは最初に聞いた音だ。これがベタな物語なら、お姫様が魔物に襲われる展開であり、助けないと話が詰みかねない。
「ん?」
ガラにもなく考えていると、手に違和感を感じた。
「あ、相ぼォォぉお!!!!」
石が、割れた。
こうして俺は最初の相棒を失い、また一人になってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます