見返りチェッカー

自称「発明マニア」の友人から、

「面白いものを作ったから見に来いよ」

と連絡があったので、見にいくことにした。


友人宅に着くなり、友人は一本のメガネを俺に差し出してきた。

たまたまなのか狙ったのか、その眼鏡は俺が普段使っているものと同じようなデザインだった。

「で、このメガネが何だって?」

俺が聞くと、友人は

「聞いて驚け、これは『見返りチェッカー』なのだ」

と、胸を張って答えた。


友人が言うには、この「見返りチェッカー」で「その人が自分の行為にどれだけ見返りを求めているかのパーセンテージ」を見ることができるのだそうだ。

俺が訝しんでいると、

「論より証拠。実際に見せてやるよ」

といって、俺を外に連れ出した。

連れて行かれたのはデパートのお菓子売り場。

バレンタイン・シーズンということもあり、チョコレート売り場にはたくさんの女性がチョコレートを買いに来ていた。

「ほら、見てみろよ」

友人に半ば無理やり「チェッカー」を着けさせられ、女性客の方を向かされる。

するとほとんど全ての女性客の頭の上に、「300」という数字がふよふよ浮かんでいた。


『しばらく貸してやるから使ってみろよ。何か面白いものが見えるかもしれないぜ?』


試しに職場へ「チェッカー」を着けて行ってみたけど、なるほど確かに友人の言う通り、面白いものが見えてきた。

スケベで有名な部長は女子社員に何か雑用を言いつけるたびに、好みのタイプの違いなのか数値が目まぐるしく変わっていた。

「メンヘラ」と噂のある女性社員は、ある男性社員に仕事を頼まれるとチェッカーが壊れるんじゃないかと思えるほど、数値が跳ね上がった。


そんな中、一人気になる人がいた。

派遣の女性だけど、どんな時でも数値が「0」なのだ。

つまり、「どんな時でも見返りを求めていない」と言うことになる。

俺は少し気になって、彼女にそれとなく聞いてみた。

すると彼女は

「私の仕事が皆さんの役に立つのが何よりですから、別に見返りなんて」

と、にっこり笑いながら答えた。


それを聞いて改めて気づかされた。

見返りを求めることが間違っている…と。


俺は一体、今までどれだけ他人に見返りを求めて過ごしてきたんだろう…

何だか急に、そんな自分が恥ずかしくなってきた。


でも、それに気づかせてくれたのは「チェッカー」のおかげでもある。

それは友人に感謝しないといけないのかもしれない。


あと、今度彼女を食事にでも誘って、秘訣でも聞いてみることにしよう。

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