第3話 こういう奴のことをメスガキって言うんだよね
最初にネロに頼まれたダンジョンは田舎の奥地にあった。
山奥のダンジョンというのはそれだけで人気が無い。
よほど資源が美味しいダンジョンならば、ダンジョン周辺に町が発展しやすいのだが、今回のダンジョンは産出資源も悪いらしい。
「さてどんなダンジョンマスターが出てくるか・・・」
僕はダンジョンの中に入り、ダンジョンの奥地を目指した。
まずはダンジョンに入る前に、久しぶりにステータスを確認することにした。
ユリア・フィール(幼体)
性別:女
種族:魔人
Lv16
HP:165/165
MP:200/200
スキル:ダンジョン操作 (潜在:身体強化、物体干渉、五感強化)
称号:低級魔物スレイヤー
オーガ討伐者
番狂わせ
ダンジョンマスターになってからも魔物を倒し続けたおかげで、探索者ランクはEランクになっている。
レベル16は探索者の中でも独り立ちをした探索者でもう少しレベルを上げればDランクでもやっていけるはずだ。
そしてスキルの欄に新しく3つの能力が表示されている。
ネロと会話した後、能力を認知したことで表示されるようになったのだろう。
「まずはスライムか・・・」
目の前にはダンジョンでお馴染みのスライムがいた。
手に持っていた剣を強く握り、足に力を込めると、そのまま大きく前進した。
ネロに言われた通り、身体強化の能力を使用するためである。
どうやらこの体になってもなお、能力を使用することができるらしい。
だがオーガ戦の時のように全身の身体能力と五感を上げることは出来ず、体の一部を強化することしかできない。
ネロがいうにはオーガ戦の時に能力を無理やり引き出した影響で、元の肉体が張り裂けたらしく、この体が小さいのもそれが原因だった。
今はネロが能力に制限をかけているらしく、能力の修練度に応じて自動的に制限を解除していく魔法をかけたらしい。
「はぁぁぁ!!!」
僕が全力でスライムを切り裂くと、パーン!と弾けるような音を立てて、スライムの体が飛び散ってしまった。
「うわぁ、足だけでこの威力なのか・・・」
完全にスライムをオーバーキルしてしまい、少しだけ申し訳ない気持ちになる。
スライムはゼリー状の体のため、そこまでグロテスクな死に方はしないが、肉体を持つ魔物には格上が現れない限り使用しないことにした。
そしてダンジョンの奥地にたどり着くと、一人の少女がうずくまっていた。
もしかするとこの少女がネロの言っていたダンジョンマスターなのだろうか。
僕は少女に話しかけた。
「君がここのダンジョンマスターかな」
「お姉ちゃん誰?」
「私は君と同じダンジョンマスターだよ、君のダンジョンを助けに来たんだ」
そう言って少女に手を差し出すと、少女は僕の手に触れた。
するとなぜかべチャッ!という音を立てて、少女の体が崩れ去ってしまった。
少女だったものに触れられた右手を見てみると、そこから異臭が漂っている。
「臭い・・・もしかして動物の糞か?」
その臭いは近所に住んでいた子犬のポチが出した糞と良く似ている。
僕が困惑していると、後ろからゲラゲラと笑う声が聞こえた。
「キャハハ!マジでだっさ~♡犬のフンと握手するなんてはずかしくないのぉ♡」
「誰?」
「あたし?あたしはアルマ、ここのダンジョンマスターだよぉ♡」
「そんなんより犬のフンすきなのぉ♡いいかげんふいたら~♡」
何だコイツ!?めっちゃムカつくんだけど!?
今すぐコイツを一発ぶん殴りたい・・・
「は!今何を・・・」
落ち着くんだ僕、コイツのペースに乗せられちゃだめだ!
ここに来たのはこのダンジョンを立て直すためだろ?
「アルマちゃんっていうだね、私はユリアだよ」
「いきなりちゃんづけとかなまいき~♡、アルマさまでしょ♡このげ・ぼ・くちゃん♡」
もう帰っていいかな・・・
その時様子を見ていたネロがやってきた。
「よ!アルマ久しぶりだな」
「あ!ネロじゃん!今日はどうしたのぉ?」
「今日はお前のダンジョンをどうにかしようと思ってな、助っ人を連れてきた」
「すけっとぉ?もしかしてこの下僕ちゃんのことぉ?」
「あぁ、コイツはユリアって言って今何かと話題の渋谷ダンジョンを運営しているダンジョンマスターだ」
「あぁあのネットで噂になってるダンジョンね」
「でもあたし、下僕ちゃんの助けなんてなくても運営出来るんですけどぉ」
「嘘をいうなよ、俺が定期的にDPを分け与えてるからかろうじて運営出来てるんだろうが」
「ぐ!それを言うのは反則でしょ!?」
「いい加減アルマも独り立ちをする日が来たってわけだ、これから1週間は今まで通りDPを分けてやるが、それ以降はユリアに何とかしてもらうんだな」
「え!?無理!こんな田舎のダンジョンが人気になるわけないじゃん!」
「そんじゃ頑張れよ」
そう言ってネロは僕たちを残して、いなくなってしまった。
「大丈夫か?」
「触んないでよ下僕のくせに!」
「別にあんたの助けなんてなくてもよゆうですぅ♡さっさとかえれ♡ざぁ~こ♡」
僕の目にはアルマがもはや強がっているようにしか見えない。
「分かった、もう帰るからあとは好きにしなよ」
それからアルマの様子を遠目から観察することにした。
ダンジョンマスターは人には見えない存在だ。
そんな状態でどうやってダンジョンを立て直すのか気になったのである。
「あれは、配信機材?」
もしかして僕と同じ方法を取ろうとしているのだろうか。
だが魔力でできている以上、カメラではアルマの姿を映すことは出来ない。
このまま配信をしても、殺風景なダンジョンが移されるだけだろう。
そして数日間アルマは配信を続けた。
だが誰も写らない配信を見ようとする人はほとんどいない。
同時接続数は僕を含めて数人といったところだ。
「仕方ないな・・・」
僕はダンジョンマスターになったことで使えるようになった物体干渉の能力を試すことにした。
「なんで誰も見ないのよ!」
様子を見に来るとアルマは腹を立てて物にあたっていた。
目には薄っすらと涙を浮かべている。
「そりゃ、誰も写ってないんだから誰も見ないでしょ」
「下僕?それはどういうこと?」
「ダンジョン配信には基本的に殺風景になりやすいんだ」
「配信者はその殺風景な画面を
「アイドルなら可愛さを、強い探索者なら技術と経験を見せて、視聴者を引き付ける必要があるんだ」
「だったら下僕が配信で私のダンジョンを紹介すればいいじゃん」
「それだと一時的に来るようになっても、すぐに来なくなるぞ?」
「このダンジョンには苦労して探索するうま味がないからな」
「私のダンジョンの場合立地にだけは恵まれてたから、最初はお小遣い稼ぎが出来るダンジョンを目指して運営してたんだ」
「ここは立地も悪いから、何か他のダンジョンとは違う何かが無いとすぐに運営が立ち行かなくなるぞ?」
「じゃあどうすればいいの?このままじゃあたし消えちゃうんだけど!」
「そうだな・・・アルマが協力してくれるっていうなら何とかなるかも」
僕はアルマと一緒に配信をすることにした。
僕が使える能力である物体干渉は一時的に、物体の性質を変化させる能力があるらしい。
今回その能力を使用して、アルマの体を画面にも映るようにした。
こうして後に伝説の配信となる「ダブルメスガキ配信」が幕を開けるのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます