第2話 謎の男再び

渋谷ダンジョンから帰ろうとした時、突然聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「よう、久しぶりだな」


「お前は・・・」


目の前には2か月前に僕を生き返らせ、ダンジョンマスターにした張本人が現れた。

未だにフードの奥の顔は一切見えず、相変わらず不気味な気配をかもし出している。


「どうだ?ダンジョンの方は?」


「ようやく、ダンジョンレベルが3になったところだ」


「つまりダンジョン運営が軌道に乗ってきたってことか」


「それより、人間たちに向けて面白いことをしているじゃないか」


この男が言っているのは配信のことだろうか。

すでに世間には僕がダンジョンを自在に操れることは知れ渡っている。

今更口封じをしたところでもう遅いのだ。


「ダメだったのか?別に口止めされてないからいいと思ったんだが」


「いや、むしろやってくれてよかったと思ってるぜ!さすが俺が見込んだやつなだけはある」


「どういうことだ?」


「お前さんの活動が、俺の目的のためになってんだよ」


「そろそろお前さんにも、こちら側の情報を共有しても良い頃合いか・・・」


すると男はダンジョンマスターの秘密を話し始めた。


「さて何から話したもんかな」


「まずダンジョンマスターはお前さん以外にも存在する」


「そうなのか?」


「あぁ、大抵の大型ダンジョンにはダンジョンマスターが存在しているぜ」


驚いた、ダンジョンマスターは僕意外にいないと思っていたからだ。

そして不思議に思うこともある。


「なんで今まで誰一人ダンジョンマスターに出会わなかったんだ?」


「本来俺たちは人間には見えないんだよ」


「だがお前さんというイレギュラーが存在した」


「イレギュラー?僕はスキルも実力も無かったんだけど」


「そのがイレギュラーだ」


「俺たちは体が魔力で構成されているせいで、肉眼ではその存在を認識することは出来ない」


「魔力ってのは無色透明だからな」


「だがお前さんのようにスキルの無い人間は俺たちを見ることが出来る」


「なんで見えるのかは分かっていないのか?」


「まだ詳しいことは判明していないが、一つの仮説は出たぜ?」


「どうやらスキルが無い人間はスキルの代わりに五感や身体能力を向上させる能力を持っているらしい」


「お前さんはオーガとの戦いの中で無意識のうちにその能力を使用していたわけだ」


「そこに俺がたまたま居合わせたことで、俺の存在を認識できたんだろうな」


男の話を聞いて納得のいった部分は多かった。

確かにあの時はいつもより妙に体が軽く、動きも研ぎ澄まされていた。

戦いが長引くにつれてその感覚は鋭くなっていき、気が付くとオーガの動きが遅く見えていた。


「僕がダンジョンマスターを視認できた理由は分かった、だがまだお前の目的を聞いていないんだけど」


「そうだったな、俺の目的はたった一つだけだ」


「それはダンジョンマスターのいるダンジョンを存続させて、これ以上同族を犠牲にしないことだ」


「前にも話したが、魔力を失ったダンジョンは自然と消えてしまう、そのダンジョンを所有しているダンジョンマスターを道連れにしてな」


「ダンジョンの所有者を変更できないのか?」


「それが出来たらよかったんだがな、残念ながら一度ダンジョンマスターに任命されると変更はできない」


「お前さんに期待する理由は、ダンジョンマスターの中で唯一実体を持っているからだ」


「ダンジョンマスターはダンジョンから出ると、体の魔力が尽きて1時間もしないうちに存在が消えてしまう」


「その点、お前さんは自分のダンジョンが消えない限り、自由に地上を出歩けるからな」


「今後お前さんにはダンジョンマスターのいる消えかかったダンジョンの運営を頼みたい」


「さすがに学校と自分のダンジョンの管理で忙しいんだが」


「ダンジョンに付いては自働召喚を手に入れたんだろ?だったらほっといても問題無いじゃねぇか」


「ぐ!いつのまにそんな情報を・・・」


「それに移動については遠かったら俺が飛ばしてやるから問題ねぇよ」


「俺はダンジョンマスターの中で唯一、ダンジョンを瞬間移動できる能力を持ってるからな」


「今まで訪れたダンジョンならどこでも行けるぜ?」


「ん?それならお前さんがダンジョンを運営すればいいだろ?」


「俺はダンジョンの案内係だぜ?、せいぜいアドバイスくらいしかできないな」


白々しいなコイツ・・・絶対めんどくさいだけだろ。


「お前さんは配信っていうダンジョンを紹介する最強ツールがあるんだから、それを活用してくれればいいんだよ」


「命の恩人の言うことはちゃんと聞いておくもんだぜ?」


「はぁ、分かったよ」


この日から僕は他のダンジョンの運営をするはめなってしまった。

相変わらずこの男の言動はムカつくが、他のダンジョンマスターの存在が消えてしまうのは少しかわいそうだと思った。

せめて手の届く範囲だけでも救えると良いのだが・・・




「そういえば、お前って名前とかあるのか?」


「決まって無いな、俺たちに親というものは存在しないし、適当に付けた名前で呼んでるぞ?」


「他の仲間にはなんて呼ばれてるんだ?


「俺の場合は「ネロ」って呼ばれてるな」


「いつまでも寝ないから、ダジャレで付けられたけど」


「それなら、これからはお前のことをネロって呼ぶわ」


「好きにしな」


「あ、それとこれからはお前じゃなくて、ユリアって呼べよ?」


「はいはい」


こうしてネロとの長い付き合いが始まった。






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