第17話 結果はまぁ、ねぇ・・・?

Bブロック決勝が始まり、選手たちはそれぞれ持ち場についた。

決勝では料理を早く作り終えたものから審査員席に料理を持っていき審査してもらうという方式をとっている。

そのため先に料理を持って行った人が美味しいほど、後続のハードルが上がってしまう。

今回僕は一定の美味しさを維持しつつ、そこそこ短時間で作れる料理を出すつもりだ。

ちなみに審査員は三等分にはなるものの、32人分の料理を審査する必要があるが、問題はない。

その理由は探索者のほとんどは大食漢な人が多いからだ。

これは魔力が体のカロリーを消費して生成されるため、その分多くとる必要がある。

上位の探索者ともなれば人間離れした量を食べることも可能だ。

そして30分後、一番初めに料理を完成させた選手が審査員席に料理を持っていった。


最初に料理を完成させたのは前回準優勝だった、料理研究部副部長の塩田しおためぐみさんだった。


「一番初めに料理を完成させたのは塩田恵さんです!前大会では一番最後に出すことを重視していましたが、今大会はスピード勝負に出たようです」


「今回恵さんが作った料理は洋食の定番である卵をふんだんに使用したパスタです!」


「では審査をどうぞ!」


審査員たちは一口パスタを食べると、もう一口、さらに一口と食べるペースを速めていった。


「こ!これは旨い!」


「本当ですね!美味しいです!」


ひかりさんと源次郎さんは絶賛しながら次々と食べ進めている。

一方由香里は一人静かに食べ進めていた。


その後審査員がパスタを食べ終えたところで、料理の審査が始まった。


「みなさん途中からモリモリと食べ進めていましたね」


「やはり全大会で決勝を争った方の料理を一味も二味も違うのでしょう!」


「では点数の方をお願いします」


決勝の最高得点はこれまでと同じ30点満点。

審査員はプラカードに点数を書き入れ、観客の生徒に次々と見せていった。


「ひかりさん8点!、源次郎さん9点!、そして由香里さんが6点です!」


「合計23点!?かなりの高得点です!」


「では審査員の方々にこの点数を出した理由をそれぞれ聞いてみましょう!」


「まずはひかりさんから順番にお願いします!」


「はい、やはり卵と生パスタという黄金の組み合わせが良いですね」


「パスタは比較的簡単な料理ですが、アレンジによっていくらでも美味しく作れます」


「このパスタにはオリーブオイルの風味とパスタが見事にマッチした料理だと思います!」


「次は私ですね、やはり短時間で作られたとは思えないクオリティに満足しています」


「レストランなどでもお客さんに料理を出すために、短時間でいかに美味しく作るかを常に研究していますが、この料理にも恵さんの様々な試行錯誤をした努力が詰まった料理だと思いました」


「他の方々に比べて由香里さんは点数が低いですね?理由をうかがってもよろしいですか?」


「ん~そうだな・・・昔よく通ってた洋食レストランと同じ味がするね」


「というか全く一緒?」


すると会場中にどよめきが走った。

なぜならこの料理大会は基本を忠実にしつつ、オリジナルの料理を出す必要があるからだ。

もしレシピの登用がバレれば、大会の強制退場になっていしまう。

するとBブロックで出場していた神田かんだ沙耶さやさんが言葉を発した。


「あの、近くにこれが・・・」


恵さんが料理をしていた場所で、何かが書かれた紙切れを見つけたらしい。


「こ、これは・・・」


そこにはパスタのレシピが載っており、あるお店の名前が書かれている。


「このお店って駅前の有名店じゃないですか!時短だけどとっても美味しいパスタを出すお店で有名な!」


司会の彩香さんがそういうと、恵さんがうずくまり泣き出してしまった。


「ごめんなさい、ごめんなさい」


その後、不正があらわになったことで正式に恵さんの失格が決まった。

今回のレシピはお店に頼み込んで、こっそり入手したものだったらしい。

全大会も同じ手法を使い、準優勝にまで突き進んだそうだ。

その動機はこの大会で優秀な成績を残し、上位の探索者に嫁ぐこと。

昔に比べて女性探索者が増えたものの、未だに家事が得意な妻と結婚したい男性探索者は多い。

この大会で優秀な成果を上げ続けられれば、今でも嫁ぎ先には困らないのだ。

彼女の実家は昔ながらの古風な家で、より良い嫁ぎ先を見つけたものほどヒエラルキーが高くなる。

彼女は特に優秀なスキルも無く、料理の腕も平凡なため、ヒエラルキーの最底辺にいた。

それがストレスとなり、料理の盗作に手を出してしまったらしい。


「残念ながら恵さんは失格となりましたが、引き続き大会を継続します」


次に料理を完成させたのは、先ほど不正を暴いた沙耶さん。

今回はカレーを作ったそうで、とても香ばしい香りがしてきた。

点数は23点で、隠し味のリンゴとカレーの辛みが絶妙にマッチした味だったらしい。


一旦僕を飛ばして最後に料理を出したのは1年生で初参加の橋田はしだ京子きょうこさん。

彼女は一番最後に料理を出したことで、ハードルが上がっていたもののそのハードルを裕に超えた料理を出してみせた。

それはパエリアという料理で世界三大米料理の一つらしい。

作る人によって味が大幅に変化し、京子さんが作ったパエリアはレストランに並んでいてもおかしくないほどの出来だった。

点数は今大会最高得点の26点、文句なしの予選1位通過である。


ちなみに僕は得意料理の肉じゃがを出した。

点数は21点と高得点ながらも、他の二人がすごすぎて影が薄くなっている。

なぜか由香里が7点と他の二人よりも高得点を出していたことが気がかりだが、たまたま機嫌が良かっただけなのかもしれない。



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