第15話 昔の校則って割と残っていたりするよね

僕が転校した東京探索者女子高等学校は普通の学校と違って探索者協会が運営している高校だ。

この高校が設立された背景には過去に起きた戦争が関係している。


19世紀までは、探索者は戦争の主力として重宝されていた。

各国は強力な探索者を常に求めていて、スキルが強力な者を次々と兵士にしていった。

女性は家事と子育てする必要があるため、当時集められたのは男性がほとんどだった。

その中には一般人から無理やり探索者にされた人たちもいて、戦闘経験のない数多くの一般人がダンジョンで亡くなった。

当時の国連はその状況を変えるために、国際法の制定を各国に呼びかけ1919年の第1次世界大戦が集結したと同時に国際探索者法を制定した。

国際探索者法には探索者を軍隊に編成する際の様々な規定が定められており、その中にある一般人を強制的に探索者にすることを禁止する法律により各国は探索者を育成する機関を作る必要があった。


この学校は当時の財閥が主導で作り上げた学校で、次世代の探索者を生むための女性を集める目的があった。

強力なスキルさえあればこの学校に入学できたため、例え貧乏な村娘でも裕福な男性と結婚できると、この学校は日本中で憧れの場所となった。


時代は移り変わり冷戦も終わった現代では、戦争の戦力としての探索者は減少しつつある。

財閥が解体され、この高校も民間組織である探索者協会に売却された。

その影響で花嫁修業の場でしかなかったこの学校は、探索者を育成する機関として変化していった。


そういった時代背景から古い歴史のあるこの高校には昔から残っている校則がある。

それは長期の休み開けに複数の生徒に料理を振舞うという校則だ。

この校則はこの学校が花嫁育成機関だった時代から続くもので、生徒が長期休み中に練習した料理の腕を他の生徒に披露するのである。

食事は体が資本の男性探索者にとって重要な要素で、より美味しく、栄養バランスの整った料理を作れる人ほど人気があった。

料理が苦手な人はそれだけで人気が無く、結婚も難しかったため生徒が自主的に料理の腕を上げていた。

この校則は料理が苦手な生徒が他の生徒に料理を振舞うことで自身の料理の腕を向上させるという目的でできたものである。

現在も残っているのは、「他の家事が苦手でもせめて料理くらいはちゃんとしたものを食べるように」という学校側のメッセージが込められている。


「みんな料理がうまいのに、僕だけ下手だからどうしよう・・・」


料理は毎日行っていたが、基本はチャーハンといった本当に簡単な物ばかり作っていた。

毎日のように料理の腕を磨いている生徒からしたら、お子様レベルだろう。

料理を披露する場である料理コンテストは高校の一大行事にもなっていて、全生徒が参加する。

僕はこのことを転入したその日に知った。

コンテストは2週間後に開催されるらしく、もうあまり時間が無い。

僕は少しでも料理の腕を上げるために、幼女と関わらなければ基本的にハイスペックな義姉の美春さんを訪ねていた。


「よし!今日から毎日ここで料理練習しましょ?」


我が姉ながら本当に頼りになる。

重度のロリコンではあるが、この人の妹になって本当に良かった。


「お姉ちゃん、料理は得意分野だからいくらでも頼ってね!」


「ありがとうございます!」


「ユリアちゃんがここに来てからしばらく経つし、そろそろ敬語をやめて、呼び方もミー姉ちゃんって呼んでくれると嬉しいなぁ~」


「遠慮します」


それから美春さん主導による料理の個人レッスンが始まった。


「まずはユリアちゃんが作れるものをこれに書いてほしいな」


美春さんに渡されたメモに僕が作れる料理を書いていった。


「ふむふむ、これはなんというか・・・男性の一人飯みたいね!」


「あはは、そうですね・・・」


「でも料理がすごく下手って言ってたから、簡単な料理が作れるだけでも上出来だよ」


「そう言ってもらえると助かります」


「まずは定番の肉じゃがからかな」


「肉じゃがですか」


「うん、簡単だけど、出汁によってはいくらで美味しく作れるからね」


「よろしくお願いします!」


そして美春さんと共に肉じゃがを作り始めた。

まずはニンジン、玉ねぎ、ジャガイモなどの定番の野菜を切っていく。


「あ!そうそう、まな板で食材を切るときは肉からじゃなくて、野菜から切ってね」


「それは大丈夫です、一人暮らしの時も食中毒だけは気を付けていたので」


「本当に怖いからね食中毒は」


「探索者は体は丈夫だけど病気には弱いから、下手したら大変なことになるよ」


「探索者協会の人にも言われました、病気にだけは最新の注意を払いなさいって」


「うんうん、それじゃ野菜も切り終わったし、次はお肉を切ろっか」


「分かりました」


そして肉を一口大に切ると、あらかじめ油を熱して温めていたフライパンで肉を炒め、頃合いを見て野菜を投入した。

キッチンにはジュージューと心地よい音と、肉の香ばしい香りがする。


「ある程度炒めたら、お水と砂糖を入れるよ」


「よいしょっと」


僕はフライパンに適量の水と砂糖を入れた。

ジュージューという音がさらに大きくなり、香ばしい香りがさらに強くなる。


「あとは出汁を入れて、落し蓋をしてから20、30分煮込んだら完成だよ」


「今回は初めてだから、市販の出汁を入れてみようか」


「はい」


美春さんの言う通り、市販の出汁をいれてしばらく煮込み続けた。

20分後、落し蓋を取り箸で野菜の煮込み具合を見てみると、スッと箸で簡単に割れるくらいに柔らかくなっている。


「これで完成だよ」


「始めて作りましたが、肉じゃがってこんなに簡単だったんですね」


「そうだね、でも出汁にこだわったり、野菜の切り方を工夫したりすればもっと美味しくなるよ」


「もっと精進したいと思います」


それからさっそくリビングで試食をすることになった。


「それじゃ、今日は試食係の人を呼んだから食べてもらおう」


「試食係ですか!?」


「うん、やっぱり人に食べてもらって感想を聞くことが、料理がうまくなる一番の近道だからね」


すると美春さんの部屋から愛理さんが現れた。


「さっきぶりですね、ユリアさん」


「すみません、愛理さんも料理の練習があるのに」


「いいんですよ、私、旅館の娘だけあって料理は得意なんです」


「愛理ちゃんの実家は桜田旅館っていう高級旅館だからね」


「そんな子に審査してもらえるんだから、これ以上の適任はいないでしょ?」


「はい・・・よろしくお願いします」


いきなりラスボスみたいな人に味見を頼むなんて、美春さんも人が悪い。

思いっきり悪く言われたら立ち直れない自身があるぞ、これは・・・

愛理さんは僕が作った肉じゃがを一口分、口に運んだ。


「どうですか?」


「ふふ、いいですね、優しい味がします」


「この野菜は、どうしてこの大きさに切ったんですか?」


「食べやすいように小さめに切りました」


「より美味しく作るなら大きさが足りません、大きく切ってより煮込んだ方が味が染みて美味しくなりますからね」


「ですが、あまり大きいと口が小さい人にとって食べずらいですから、どんな人でも一口で食べられる人ようにした良い料理だと思います」


「今後は出汁を作れるようになれば、より美味しくなると思いますよ」


「へぇ、愛理ちゃんに褒められるなんて良かったね」


「はい!、今後もたくさん作って精進したいと思います!」


久しぶりにこうして面と向かって、人に褒められた気がする。

スキルも無く、大した特技も無い僕は、探索者から基本的に下に見られていた。

今日褒められたことは、そんな何もない自分に自信を付けるいいきっかけになるかもしれない。






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