第14話 例え血反吐を吐こうとも・・・

復帰配信を終えてからも、私は毎日欠かさず配信を続けた。

私はの探索者ランクは現在Eランク。

実力的にはようやく初心者を脱したレベルだ。

以前の反省を生かし、最近はダンジョンのに潜り続けてレベル上げに勤しんでいる。


「これで最後だね」


そう言って10体目のゴブリンにとどめを刺す。

するとレベルが上がったのか、体から力が湧きだすような感覚がする。

私はさっそくレベルアップしたステータスを確認した。


水無月 桜


性別:女

種族:人間


Lv15

HP:110/110

MP:70/150


スキル:治癒力活性化

    水魔法(中級)


称号:低級魔物スレイヤー


「ようやく15レベルだ」


探索者はダンジョンのどの階層で探索するかをランク以外に、適性レベルで判断している。

大まかな適正レベルは1階層が1~10レベル、2階層が11~20レベルと1階層ごとに10レベルずつ分かれている。


私のレベルだけでいえば2階層にも挑めるが、やはりソロで探索を行うには危険すぎる。


「最近話題のダンジョンに行ってみようかな・・・」


現在探索者の間で密かに有名になっているダンジョンがある。

そのダンジョンは人間が運営しているという、他では類を見ない幻のダンジョン。

ダンジョン内にはシルバーフォックスという新しい魔物も生息していて、探索者の中には一日で数十万円も稼いだ人がいるらしい。

さらには安全に配慮されているためかダンジョン内で誰も死んだことが無く、初心者の探索者もこぞって探索しているのだ。


「それにユリアちゃん可愛いんだよな」


ダンジョンを運営している張本人である、ユリア・サラテクトちゃんはダンジョンの呪いによって幼くなってしまった私と同い年の少女だ。

のじゃ口調という個性的な語尾と、人形のような可愛らしい容姿によって絶賛急上昇中の配信者だったりもする。


「私は一年もかかったのに、すごいな」


次の日、ユリアちゃんが運営している渋谷ダンジョンに行く途中の電車で彼女のチャンネルを見ていた。

現在ユリアちゃんのチャンネルは5万人を超えて、もうすぐ6万人に到達してしまいそうな勢いだ。

対する私のチャンネル登録者は2万2千人。

凡人の私が一年も続けてこの程度なのだから、いかに彼女の才能が凄いかが分かる。


「私も頑張らないと!」


無事に渋谷ダンジョンに付くと、入口に大きな看板が立てられていた。

看板には可愛らしい文字で、ダンジョンの注意書きが書かれている。


渋谷ダンジョン

みなのもの探索者のユリアじゃ

このダンジョンの注意書きをここに書いておくぞ!


ダンジョン内での私闘の禁止。

魔物の横取りの禁止。

魔物の乱獲の制限(魔物はそれぞれ一人10匹まで!」

ダンジョン内での配信活動の禁止。(配信したいものはわしに許可を取るのじゃ)


「今日はユリアちゃんいないんだな」


看板の横には外出中という立札が置かれている。

最近配信上で新しい住所が決まったと言っていたのでそこにいるのかもしれない。


「よし!まずは1階層からだね」


ダンジョンに入る前に、自身に加護をかける。

加護は魔力があればだれでも使える魔法だ。

HPの代わりにMPを消費してダメージを肩代わりする魔法だ。

加護を掛けている間はMPが自然に消費されていくが、あらゆる魔物の攻撃から体を守ることが出来る。

加護を掛け終えた後、1階層を少しだけ進んでみると、スライムが現れた。

さすがにスライムに後れを取ることは無いので持っていた短剣でサクッとスライムを倒すと、今度はシルクワームが現れた。


「糸に絡まると面倒だし、魔法でやっつけちゃおう」


私は回復スキルの他に水魔法が使える。

水魔法は他の属性魔法と違ってややサポート寄りの魔法だ。


「ウォーターカッター!」


私が手を魔物に突き出して魔法を唱えると、縦長の水の刃が魔物に目掛けて発射された。

するとシルクワームの胴体が真っ二つに割れてしまった。

ウォータカッターはあまり威力は高くないが、MPの消費量が5と攻撃魔法にしては少ないため扱いやすい。

威力もシルクワームくらいの魔物であれば一撃で真っ二つにすることも可能だ。


「この調子で残り9匹倒そう」


その後2時間くらいかけて魔法を使いながらシルクワームを9匹、スライムを4匹倒した。

このダンジョンは魔物の遭遇率が異様に高い。

通常のダンジョンでは10分に1匹という頻度でしか魔物が現れないが、このダンジョンは倍の頻度で現れる。

それもシルクワームなどの換金率の高い魔物が多く、探索者の間で好評となっている。


「残りMPは81か・・・」


MP切れは探索者にとって、死を意味する。

加護を維持するMPが無いからだ。


「せっかくだし一匹位倒してみよう」


シルバーフォックスは火の魔法を使うらしいので、水魔法を使える私とは相性がいい。

敵の強さ的にもソロで挑むにはふさわしい難易度だろう。

さっそくシルバーフォックスを発見し、先制攻撃を仕掛けた。


「ウォーターカッター!」


だが、命中する前に避けられてしまった。

かろうじてかすり傷をつけたが、魔物はピンピンしている。


「キュイ!!!」


するとシルバーフォックスが私に目掛けて、火魔法を放った。


「きゃ!」


あまりの速度によけきれず、そのまま直撃してしまった。

MPは20ほど削れており、シルクワームたちとは格が違うことを思い知らされる。


「私だって成長したんだ!」


探検を構え水魔法を唱える。

ここに来るまでにずっと練習していた技。

魔力を短剣に乗せて刀身を疑似的に伸ばし、敵の意表を突く技。


「はぁぁ!!!」


掛け声とともに全力で走り出す。

シルバーフォックスは次々と火の魔法を放つが、加護にすべてを任せて魔物に近づいた。

その勢いのまま魔力を短剣に乗せ、技を発動させる。


「ウォーターブレイド!」


すると10cmほどだった短刀の刀身が倍以上に伸び、シルバーフォックスの胴体を切り裂いた。


「キュイ・・・」


そのままシルバーフォックスは絶命し、ステータスには新たな称号が追加されていた。


水無月 桜


性別:女

種族:人間


Lv15

HP:110/110

MP:20/150


スキル:治癒力活性化

    水魔法(中級)


称号:低級魔物スレイヤー

   シルバーフォックス討伐者


「やった!ようやく一人で中級クラスの魔物が倒せた!」


シルバーフォックスの推奨ランクはパーティでEランクであり、ソロだとDランクにもなる強敵だ。

今回の成果により、自分が着実に成長していると実感する。


「これからも頑張らなくちゃ!」


今回の敵は小さな一歩かもしれない。

それでも私は自分の目標を達成するまで、探索を続けるつもりだ。

例え血反吐を吐こうと、このいばらの道を歩くのをやめるつもりはない。

それが私の思い描く、理想の探索者への道なのだから。










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