第11話 タワマンっていざ住んでみると、2階くらいの方が住みやすいよね

2階層を追加してから数日、突然手元に置いていたスマホが鳴った。

このスマホは以前美春さんから渡されたもので、主に近況報告の手段として利用している。

通話に出てみると美春さんが話しかけてきた。


「おはようユリアちゃん、ミー姉ちゃんだよ?」


「その呼び方は不採用にしたのですが・・・美春さんお久しぶりです」


こうして美春さんと連絡を取り合うのは1週間ぶりぐらいだ。

その時は僕が地上で住むためのマンションが決まったことを伝えられた。

今回連絡してきたのはそのことについてだろう。


「前に話したマンションに家具とか設置したから、いつでも引っ越しできるよ」


「そうですか、ありがとうございます」


「美春ちゃんもダンジョン内じゃなくて、私の家で過ごせばよかったのに・・・」


「いえ、何から何までしていただいたのに、これ以上厄介になるわけにはいかなかったので・・・」


実際は身の危険を感じたからなんだけど・・・

それにもとは他人同士というのもあって、いきなり他人の家に住むのは小心者の僕にはハードルが高かった。

こればかりは生前からの人付き合いの苦手さが影響している。


「それじゃ今ダンジョンの入り口にいるから出てきてね」


「え?もういるんですか!?」


「こういうのは早い方が良いんだよ」


僕は急いでダンジョンを出ると、急に後ろから抱きしめられた。


「捕まえた・・・久しぶりだねユリアちゃん」


「み、美春さん?」


「それじゃ行こうか」


「ちょっと」


逃げ出そうにも、美春さんの力が強くてビクともしない。

僕はそのまま車の中に連行された。


「はぁ、はぁ2週間ぶりのユリアちゃん成分だぁ」


「離してください!」


社内では美春さんに抱きしめられながら。クンクンと臭いを嗅がれている。


「ぐへへ、マンションに着くまでの間、ユリアちゃんを堪能しなきゃ」


美春さんは美人でスタイルも良いような完璧超人だ。

そのため男ならば誰もがこの状況をうらやましがるのかもしれない。

だが僕の場合、自分の倍はある大人からセクハラされたら、興奮を通り越して恐怖しかない。


「運転手さん、助けてください!」


運転手さんは「ごめんなさい、仕事なので」とだけ言って、聞き入れてもらえなかった。

それから30分にわたって、美春さんに好き勝手されてしまった。

もうお嫁にいけない・・・ぐすん


「はぁ~堪能したぁ」


美春さんの肌がやたらとつやつやしている。

僕はそんな美春さんを見ながら、げっそりとした表情で新居について聞くことにした。


「そ、それで何処が私が住むマンションなんですか?」


周りには上を見上げるのが疲れるほどの高層のタワーマンションしかない。

この辺りは都内で特にタワーマンションの多い中央区だ。

周りにはいかにも高級そうなスーツを着こなしたサラリーマンや、ブランドものに身を包んだ主婦しかいない。


「ここだよ?」


「はい?」


美春さんが指を指したのは、この辺りで一番大きなタワーマンションだった。


「ここの最上階だと上り下りが大変だから、2階の205号室だね?」


「ちなみにお姉ちゃんは隣の204号室だから、よろしくね」


「は、はい・・・」


そういえば忘れてたわ、美春さんがお金持ちのお嬢様だったことを・・・


その後タワーマンションの自室に入ってみると、最新式の家具や高級そうなソファーが置かれていた。


「ドラム式洗濯機なんて使ったことないよ・・・」


貧乏な一人暮らしでは、大した家具なんて買えない。

テレビもないし、大抵の家具は型落ちした中古のセール品ばかりだ。


「使い方は大丈夫?」


「は、はい!一人暮らしだったので大丈夫だと思います!」


「そっか、こんなに小さな体だけど、中身は17歳だもんね」


「それじゃ、しばらくは一人でゆっくりしててよ、私は配信用の動画の編集とかしてくるから」


「わかりました」


美春さんが部屋から出ていくと、広々とした部屋にポツンと一人の幼女が取り残される。

全てが非現実的で生前の生活からは考えられない光景だ。


「僕なんかがこんな風に扱われてもいいのだろうか・・・」


僕は自分自身を無価値な存在として認知している。

人付き合いが苦手で、他に何の取り柄のない空気のような人間。

思えば、施設でもずっと独りぼっちだった。

昔から部屋の隅でぼおっとしているような性格で、何かに打ち込んだこともない。

そんな僕にも声をかけてくれた人がいる。

僕の初恋の人で、僕が冒険者を目指すきっかけになった人物。

現在探索者の間で最も優れた実力を持つものに与えられるSランクという称号。

世界に6人しか存在せず、わずか16歳という最年少でSランクにたどり着いた天才。

園部そのべ由香里ゆかりは僕にとってあこがれの存在だった。

いつか彼女の隣に立って、この思いを伝えたい。

それが僕が探索者として叶えたい願いであり、目標でもあった。






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