第7話 もしかして外国人だと思われてる・・・?

カフェでの食事を終えて、さっそく区役所に向かった。

区役所内は平日の昼間というのもあって、あまり混んでいない。

受付の番号札を受け取り、美春みはるさんと一緒に窓口に座った。


「本日はどのようなご用件でしょうか?」


「この子の戸籍登録がしたいんですよ」


「この子ですか・・・失礼ですがお二人はどのようなご関係で?」


「遠い親戚ですね、こちらに勤務している田辺たなべさんに話を通しているのですが・・・」


「確認しますね」


窓口の女性は奥の部屋で誰かと相談していた。

それから数分後、一人の男性が受付にやってきた。


美春みはるちゃん久しぶりだね、前の創立記念パーティ以来かな」


田辺たなべさんお久しぶりです、相変わらずお元気そうで」


「ささ、ここじゃぁなんだし奥の部屋に来てよ」


それから田辺たなべさんに区役所の客間に案内された。

区役所なんてほとんど行ったことのなかった僕がこんな豪華な部屋に案内されると、特別視されているようでとてもわくわくしている。

こういう扱いに慣れている美春さんはやっぱり住む世界の違うお嬢様なんだなと改めて感心した。


「はいこれお菓子ね、それと日本語は通じるかな」


もしかして外国人だと思われてる?

たしかに人形みたいに整った顔立ちと、美しい金髪を兼ね備えた完璧美少女だけれども!


「はい、通じます」


「よかった、おじさん外国語あんまり得意じゃないから助かったよ」


「それで戸籍をどうにかしたいんだよね」


「はい、ダンジョン内で呪いを受けたせいでこんな体になったんです」


「元は17歳の体だったんですが・・・」


「親御さんとかはいないの?」


「施設育ちで親はいません、高校に進学してからはずっと一人暮らしをしています」


「なるほどねぇ」


「つまり君の扱いは孤児って扱いになるかな」


「孤児ですか・・・」


「そうそう、戦争とかで身分の無い子供とかと扱いは同じかな」


「ダンジョンは危険な場所だから、親を亡くした子供も多いんだよ」


「その中には訳アリで、子供の戸籍登録をしていない親も居てね」


「もしかしてスキル継承ですか?」


「よくわかったね、そのとおりだよ」


基本的にスキルは親から子供へと受け継がれていくものだ。

これはダンジョンが出現してから変わっていないことで、子供は親のスキルを一つだけ発現させる。

だがごくまれに一切のスキルを発現させることなく生まれてくる子供が存在する。

スキルなしの無能と呼ばれる子供を持つと、親は周囲の探索者から縁起が悪いものとして露骨に差別されるのだ。

それだけスキルというものは探索者にとって、何よりも優先すべき能力なのである。

もしかすると生前の僕を生んだ親も周囲からの差別を恐れて、施設に預けたのだろうか。

これも探索者が生活の一部となっている、現代が生んだ問題なのだろう。


「探索者の中にはスキルを持たない子供を認知しない親が多いんだ」


「国としても差別をなくそうと、いろいろと対策はしてるんだがなかなか・・・」


「そうですね、難しい問題です」


「となるとどこかの養子になるか、日本人の誰かと結婚するしかないね」


「養子、結婚・・・!?」


まずい隣に居た変態が反応した・・・

これまでずっと黙っていた美春みはるさんは何故か突然息が荒くなっている。

今まではお堅いイメージを守るために自分を抑えていたが、この二つの単語を聞いたことで抑えが効かなくなっていた。


「美春ちゃん大丈夫?体調悪いなら家でゆっくりしなよ」


「いえ、大丈夫です」


美春みはるさんはこほんとわざとらしく咳ばらいをすると、ある提案をした。


「養子でしたら、私にいい考えがあります」


「もしかしてだけど、美春ちゃんの子供にするの?」


「いえ妹にします、さすがに20歳で小学生の子供を持つのは世間的にもよくありませんので」(ユリアちゃんが子供!?グヘヘそうなったら毎日可愛がるんだけどな・・・)


今一瞬美春さんが良からぬことを考えた気がしたが、きっと気のせいだろう。


「ユリアちゃんもそれでいいよね」


「はい、美春さんがご迷惑でないなら構いません」


「ですが美春さんのご両親は同意してくれるんですか?」


「大丈夫だと思うよ?お堅いイメージはあるけど大の子供好きだし、ユリアちゃんのこと可愛がってくれるんじゃないかな?」


「分かりました、これからよろしくお願いします美春みはるさん」


「これからは家族なんだから、みぃ姉ちゃんって呼んでね」


「よろしく、み、みぃ姉ちゃん?」


いつの間にか呼び方がランクアップしている。

不覚にも家族がいなかった僕は一瞬ときめいてしまった。

やはり美春さんの幼女に対する変態性は侮れないのかもしれない。


それにしてもこの年になって姉が出来るとは思わなかった。

美春さんも僕が不幸な少女に見えたからこそ、優しく接しているのかもしれない。

もし僕の正体を美春さんが知った時、彼女は今と同じように接してくれるのだろうか・・・それだけが心残りである。


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