第6話 そういえば身分証無かったわ・・・
ダンジョンマスターになっていつの間にか2週間が経過していた。
僕は相変わらずダンジョンの運営に
そんな状態で僕はある重大な問題を抱えていた。
「金がない!!!」
高校に進学と同時に一人暮らしをしていたため、貯金もあまり多くない。
この前に家具を一斉にそろえたことと、ここ2週間の食費で現金の残高が2万円を切っていた。
この体はダンジョンマスターという大層な存在のくせにお腹だけは空く。
このままでは公園の水以外何も口に出来なくなるだろう。
「他のダンジョンに行って、お金を稼がないと・・・」
ダンジョンマスターは自分のダンジョンの魔物を攻撃しても、何故かダメージを与えられない。
そのため他のダンジョンの魔物を倒して、お金を稼ぐ必要があった。
僕は最低限の装備だけを持ってダンジョンの外に出た。
「ユリア・フィール様ですか・・・すみません探索者協会にそのような名前の方は存在しませんでした」
やっべ、そういえば身分証無かったわ・・・
僕は他のダンジョンでスライムとゴブリンを数体倒してから、受付に素材を持って行った。
だが身分を証明することが出来ず、換金することが出来なかった。
「原則探索者以外の方は換金できない規則になっていますので、探索者登録を行ってからまたお越しください」
「はい・・・」
生前の桜田晴彦という身分で再発行はできない。
そもそも同じ国籍なのかすら怪しまれるだろう。
最悪違法滞在で捕まる可能性もある。
僕はここ最近知り合ったお金持ちで連絡先を持っている唯一の人物に通話をかけた。
「美春さん、お久しぶりです」
「もしかしてユリアちゃん!?、その口調は一体・・・」
「あれは配信用の口調なので、こっちが素の喋り方です」
「そうなんだ・・・今日連絡してきたのはついに私の家に来ることを決心してくれたってこと?」
「違います、探索者の身分証の件で連絡しました」
美春さんは少しがっかりしていたが、相変わらずテンションが高いままだった。
「実は身分証が無くて素材の換金が出来ないんですよ」
「呪いにかけられる前の身分証は使えないの?」
「それが魔物と戦っているときに無くしてしまって・・・」
「再発行しようにも、この体だと本人かどうか信じてもらえないんですよ」
「あぁ・・・なるほどね」
「2週間もダンジョンで行方不明だったから。今頃女子高生としての国籍も抹消されているかもしれないね」
「はい・・・」
「分かった、父の知り合いに区役所の職員がいるから、どうすればいいか聞いてみるね」
「お願いします」
それから美春さんと連絡してから3日が経過した。
今日は美春さんと駅で待ち合わせをしている。
「君今一人?親御さんはいないの?」
すると巡回中のお巡りさんが話しかけてきた。
まずい、このままでは交番に連行される、何か言い訳を返さないと・・・
「いえ人を待っているだけです」
「でも君小学生でしょ?危ないからお兄さんと一緒に行こうか」
「結構です」
すると駅の入り口から声が聞こえた。
「ユリアちゃん!おまたせ!」
「美春さん・・・」
「ん?君、もしかしてこの子のお姉さんかな?」
美春さんはすっと表情を変えて返答した。
「はい、私の大切な妹です」
「実は別々に住んでいて、ここで待ち合わせていたんです」
「そうなんだ、でも一人にしちゃだめでしょ?今後気をつけなさい」
「分かりました」
「美春さんありがとうございます」
「違うよユリアちゃん、美春お姉ちゃんでしょ?それに口調も堅苦しいよ?」
「み、美春お姉ちゃんありがとう」
「かわいい!!!抱きしめてあげるね」
ぐ!今は警察官の前だからこの変態に合わせないと・・・
僕は身の危険を感じながら、美春さんとしばらくハグをしていた。
「とりあえずお腹空いたよね?」
「いえ、そこまでは・・・」
するとお腹からキュウっと小さく音が鳴った。
「あ、すみません、実は節約のために朝食を抜いてきたので・・・」
「遠慮しないでいいよ?ここはお姉ちゃんにおごらせてよ」
そして美春さんと一緒に駅の近くにある、おしゃれなカフェに入った。
「いらっしゃいませ、2名様ですね」
「はい、2名です」
「あちらの席が空いてますので、ご案内します」
「お願いしま~す」
カフェの窓際の席に座ると、店員からメニュー表を手渡された。
「ご注文が決まりましたら、こちらのベルを鳴らしてください」
「はい」
メニュー表を見ると、ほとんどの料理が1000円を軽く超えていて驚いた。
生前から自炊ばかりしていて、外食はほとんど行ったことがない。
しばらく何を頼むかで悩んでいると、美春さんが話しかけてきた。
「決まった?ユリアちゃん?」
「どれも高くて、何を頼もうかで悩んでいます」
「値段は気にしなくていいよ?これでもお姉ちゃんは稼いでいるからね!」
「それじゃ・・・」
僕はメニューを片っ端から頼んでいった。
そして出された料理を次々と平らげていく。
「ユリアちゃん、すごい食べるね・・・」
「この体になってから、やたらと入るようになったので」
「私も探索者やってるから結構食べるほうだけど、そんなに小さい体なのにどこにそんな大量の料理が入るの・・・?」
やたらと僕たちは目立っていたのか、周囲のお客さんがひそひそと噂している。
「姉妹なのかな?あの二人」
「お姉さんの方は日本人っぽいけど、小さい子の方はハーフなんじゃない?」
「よく見たらお姉さん、美春さんじゃない!?」
「ホントだ!後でサインとかもらえないかな・・・?」
料理を食べ終えたところで、席に案内してくれた店員が美春さんにサインを求めた。
「あの美春さんですよね、ダンジョン探索者の」
「そうだけど・・・」
「良ければサインをいただけませんか!?お店に飾りたくて」
「私サインはあまりしないようにしてるんだけど・・・」
「実家が結構厳しいからこういうファンサービスはあまりできないの」
美春さんの実家は代々国の要職に就いているらしく、滅多にファンと交流することはない。
やはり実家のお堅いイメージを守るために極力浮ついたことは控えているのだろう。
そのため美春さんのサインはプレミア価格が付くほど高かった。
「知ってます、ですがこのお店は父のお店なんです」
「昔から迷惑をかけてばかりだったので、たまには親孝行をしたくて・・・」
「もちろんお金は払います!」
「そう、色紙を貸してくれる?」
美春さんはすらすらと色紙にサインを書いた。
「ありがとうございます、お金は・・・」
「別にいいわよ、あなたの親を思う気持ちに感化されただけだから・・・」
店員さんは感謝の言葉を伝えながら仕事に戻った。
「美春さんすごいですね、サインなんて滅多にしないのに・・・」
「実家のイメージを崩さないことを意識しながら、ファンともきちんと向き合う、そんな美春さんの姿に憧れます」
「そう?えへへ、お姉ちゃんユリアちゃんに褒められちゃったぁ」
「あ!ユリアちゃんだったらサインどころか、何でもあげちゃうよ?」
「だから私の家に・・・」
「行きません!」
折角見直しかけた評価を美春さんは自身の変態性によって下げてしまった。
やはり美春さんとは一歩引いた距離で接するのが丁度いいのかもしれない。
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