第5話 姉を名乗る不審者に抱きしめられました・・・

初配信をして1週間、配信の効果もあって数十人ほどの探索者が来てくれた。

どうやら有名な配信者がダンジョンを紹介したことで、ネット上でプチバズリしているらしい。

ほとんどが経験のある暇を持て余した探索者ばかりだったが、中には今日が初めての探索だと言っている人もいた。

ちなみにダンジョン内には新しく、かいこの魔物であるシルクワームを配置している。

この魔物からはシルクの材料である生糸が取れる。

ダンジョンに来ている探索者の多くは、安全にお小遣い稼ぎをしたい人たちがほとんどだった。


「お主は何という名前じゃ?」


「私は美結みゆって言います、ユリアさんですよね!配信を見てきました!」


目の前には今日が初めての探索だという少女がいた。

彼女を見ていると、初めてダンジョンに足を踏み入れた時のことを思い出す。

始めて潜った時はいい思い出だったな。

あの時は誰も組んでくれなくて、一人で潜ったんだっけ。その時にゴブリンにボコボコにされたんだった。

やっぱいい思い出じゃないわ、取り消す。


「配信を見てくれてありがとうなのじゃ、お礼にこのスライムを触るがよい」


「わぁ、こんなにひんやりしてるんだぁ」


僕は来てくれた探索者全員にスライムを触らせていた。

スライムは酸に覆われていることが多く、直に触ったことのある人は皆無に等しい。

そこでダンジョンを操作できる僕が許可することで、誰でも触れるようにしている。

今後は地上にでて、魔物の展覧会をするのもありかもしれない。

将来の展望を考えていると、後ろから誰かに抱きしめられた。


「誰じゃ?」


「ぐへへ、ユリアちゃんかわいい」


「離すのじゃ、不審者め」


「うふふ不審者じゃないよ?、私のことは美春みはるお姉ちゃんって呼んでね」


なんだこいつ力強!

あまりの拘束力に動けないでいると、先ほど話していた少女が驚いた声を出していた。


「もしかして探索者の美春みはるさんですか!?」


「誰じゃ?」


「ダンジョン配信者の美春みはるさんだよ!パーティ全員が美人しかいないって噂の大人気配信者だよ!」


思い出した!確かパーティ全員がBランクの配信者で、全員が金持ちのお嬢様だったような気がする。

チャンネル登録者数は130万人でまだ1万人ほどの僕とは雲泥の差である。

今回このダンジョンを自身のSNSで紹介した張本人でもある。


「あの!いつも配信見てます!」


「ありがとう、今日はオフで来ただけだから普通の探索者として接してね」


「分かりました!」


少女がそう言って、どこかに行くと拘束する力がさらに強まった。


「ユリアちゃん、私の家に来ない?こんなダンジョンよりも絶対に住みやすいよ?」


「嫌なのじゃ!離せ!」


すると近くから美春みはるさんを呼ぶ声が聞こえた。


「こら美春みはる?、いくら小っちゃい子が好きでもセクハラはだめよ?」


「えぇ、いいでしょ?あかねのけちけち」


美春みはるさんが僕を離すと、あかねさんが体勢を僕の目線に合わせて謝ってきた。


「ごめんねユリアちゃん、美春みはる普段はしっかりしてるんだけど小っちゃい子の前だとこうなっちゃうの」


「大丈夫なのじゃ、気にするでない」


「それとユリアちゃん、政府の人があなたに話があるらしいから気を付けてね」


「分かってるのじゃ」


あかねさんの言っていることは正しい。

実は昨日から、政府の役人を名乗る人物からDMで連絡を受けている。

今日の昼に伺うと送られてきたが、予定通りならそろそろだろう。

ダンジョンの入り口で待っていると、背の高いきれいな女性が話しかけてきた。


「あなたがユリアさんですね」


「そうなのじゃ」


「わしはこのような口調しか出来んゆえ、失礼だとは思うが構わんかの?」


「構いません」


役人はいかにもエリートなオフィスレディといった格好をしていた。

きっと生まれも育ちも良い高貴な人なのだろう。


「して、何用で来られたのかの?」


「ユリアさんのスキルについて、いくつか質問に答えていただきたいのです」


「分かったのじゃ」


それからダンジョン操作のスキルについて、分かる範囲で伝えた。

つい最近取得したスキルだったため、いまだに分からないことの方が多い。


「ユリアさんありがとうございました、今回はこれで失礼いたします」


役人はスキルについて記録していたタブレットをしまい、そのまま帰った。


「さて今日だけでDPはどれほどたまったかの」


ダンジョンの壁に魔力を注いで、ダンジョンの状態を確認した。


渋谷ダンジョン Lv2 


最深部 1階層


所属魔物:スライム、シルクワーム


産出資源:鉄、銅


DP 425


SP 1


これは何というか・・・ほとんど変わってねぇ!

この1週間でシルクワームを20体ほど召喚した。

魔物を一体召還するための消費DPは10なので合計200DP消費したことになる。

まずはシルクワームを新たに召喚するために100DPを消費した。

そしてダンジョンの維持に必要なDPが1週間で168なので、513ほどDPを稼いだことになる。

黒字ではあるがこのダンジョンの人気が落ちれば、一瞬で赤字になるだろう。

やはりシルクワームとスライムでは、魔力消費の多い攻撃魔法を使う人は少ないのかもしれない。

ちなみにMPからDPへの変換率は1:1なので、最悪僕が魔法を使えばダンジョンの維持自体は出来る。

ただMPは使いすぎるとものすごく体調を崩してしまうため、あくまで最終手段ではあるが・・・


「なんという自転車営業・・・」


その時DPの下に表示された、SPという項目に気が付いた。

今までSPという表記は無かったため、ダンジョンがレベルアップしたときに突然現れたのだろう。


SP 

ダンジョンに特性を追加するポイントでレベルアップ時に1ずつ取得していく。


SPをタップするとダンジョンの特性がいくつか表示された。


召喚DP減少

魔物の召喚に必要なDPを2減少させる。


複数召喚

魔物を一度に2体召喚させる。消費DPは1体の時と同じ。


DP自然回復 

DPを3時間に10ずつ回復させる。


1階層の自然消費DP減少 

ダンジョンの1階層の維持に必要なDPを0にする。


魔物合成 

すでに召喚している魔物を合成して、別の魔物に変化させる。


これは迷うな・・・

どれも強力な効果のある特性ばかりだ。


「ここは複数召喚かな・・・」


やはり魔物1体につき10DPを消費するのは重すぎるため、単純に消費DPが半分になるこの特性は有用であると思った。

この日はそのままダンジョン奥に戻り眠りについた。

家具をいくつか運び込んだおかげで、かなり住みやすくなっていた。






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