第3話 とある少女の後悔

私の名前は水無月みなづきさくらといってダンジョンで探索者をしている女子高校生だ。

最近はダンジョン内で配信活動をすることがネット上で流行っているらしく、私も1年前からやっている。


現在のチャンネル登録者数は約2万人ほど。

底辺とは言わないけど、他のダンジョン配信者が数百万人もいるような界隈でいつまでも登録者の増えない現状に焦りを感じていた。


「みなさんこんにちは、ダンジョン探索者のさくらだよ」


:こんにちは

:今日はどのダンジョンですか?

:桜ちゃんの配信楽しみ


「今日はね、数週間前に新しく誕生したダンジョンに来てみたんだ」


:恵比寿のダンジョンか

:確か奥に行けば少量だけど金もとれるんだっけ?


「そうそう、今日は頑張って金をとりたいんだよね」


:成金探索者桜ちゃん

:下層でしょ?危なくない?


「今日はBランクの探索者パーティにお邪魔させてもらったから大丈夫だよ」


:それは安心だ

:男?女?


私はコメントに嘘をついた。

この界隈は配信者にアイドル的な存在を求める傾向にある。

男性の影があればすぐに炎上して、配信活動が出来なくなってしまうのだ。


「全員女の人だよ、でも一般の人だから顔は出せないって」


今回、私が同行したパーティーは元々三人編成のパーティだった。

前衛を担当しているBランクの男性である正人まさとさんと後衛として魔法が得意なCランク女性の由利ゆりさん、そしてもう一人正人さんの奥さんであるCランクのヒーラーの紅葉もみじさんといった編成だ。

この三人は同じ高校の同級生だったらしく、今でも家族ぐるみで仲がいいらしい。

今回紅葉さんが体調を崩してしまい、一人欠員がでたため回復魔法が使える私が同行させてもらえることになった。

一人だけ男性がいるが、声を出さなければ配信も特に問題はないはずだ。


:なら安心

:百合パーティじゃん


私は配信を付けながらダンジョンの奥へと入っていった。

道中は大した魔物に遭遇しなかったおかげでサクサク進むことが出来た。

ついに下層に到着し、運よく金の鉱脈を見つける。


「みんな見てよ!金がこんなにたくさん!」


:キタァァ

:神回

:何千万円分だろう?


配信の同接の数はついに1000人を超えて、過去一番の伸びだった。

ようやく伸び悩んでいたチャンネルが成長できると喜んでいた矢先、後ろから魔物の雄叫おたけびが聞こえた。


「うごぉぉぉ!!!」


「え?」


すると同行していた女性の探索者である由利ゆりさんが壁に吹き飛ばされた。

彼女はCランクの探索者で実力もある。

それがたったの一撃で倒されてしまった。

由利さんは血を流しながら、気絶している。

私が放心していると、同行していた男性の探索者が由利ゆりさんを抱えて叫んだ。


「逃げるぞ!!!桜さん!!!!」


その声で正気に戻り、私は必死に後についていった。


:やばい

:男居たのか・・・よくも嘘ついたな

:今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ

:桜ちゃん大丈夫?


コメント欄をふと確認するとかなり荒れていた。

今回のことで、私のチャンネルは炎上するだろう。

今後配信活動も続けられないかもしれない。

それでも今は生き残ることに全力を注ぐべきだ。

私は自分にそう言い聞かせ、必死にダンジョンの入り口に向かって走り続けた。


しばらくオーガから逃げ続けていると、遠くに一人の探索者を見つけた。

自分と同じ年代の男の子で装備は誰よりも貧弱である。

私は逃げるのに必死になってしまい足元の石に気付くのが遅れてしまった。


「しまった!・・・く!・・・痛い」


その場で転んでしまい、足をひねっていた。

こんな状態では全力で走るのは難しいだろう。

私はパーティメンバーの男性に助けを求めた。


「助けて・・・」

「すまない」


男性はそう言うとそのまま走り去ってしまった。

嘘・・・私このまま死ぬの・・・?


:あいつ桜ちゃんを見捨てたぞ!

:桜ちゃん死なないで

:誰かいないのか!?

:まずい!



いつの間にかオーガは目の前まで来ており、大きな棍棒を振り上げている。


「ひい!」


その時誰かに後ろから押された。

そこにはさっきの初心者の探索者がいた。


「早く逃げて!」


「は!はい!」


私は必死に逃げた。

足の痛みを我慢して、無理やりにでも走った。

そしてようやく入口にたどり着き、私は助けを求めた。

すると幸運なことに一人のA級探索者が来てくれた。


「大丈夫ですか?」


「は!はい!」


:ひかりちゃんじゃん!

:本物!?

:確か近くのダンジョンで配信してたから本物


目の前にはダンジョン配信者の中でもトップクラスの人気を誇る、ひかりさんがいた。

ひかりさんはほとんどの探索者がパーティーを組んでいる中で一人を貫いている珍しい人で、実力はAランクの中でもトップクラスの存在だ。

ひかりさんのチャンネル登録者数は200万人を超えており、私なんて足元にも及ばない。


「中で男の子がオーガと戦ってるんです!付いてきてください!」


「分かりました」


再び男の子が戦っていた場所に向かった。

辺りがやけに静かになっていて、魔物が一匹もいない。

不気味な空間の奥で、激しく争った戦闘の後を発見した。

男の子の無事を願いその場に近づいたが、そこにはオーガの死体と血に染まったボロボロの鞄しかなかった。。


「嘘・・・」


「どうやら相打ちになったようですね、彼の遺体は魔物に持っていかれたのかもしれません」


「彼の身分証を確認しましたが・・・Gランクですか」


:まじか

:オーガを倒すGランク・・・

:これは惜しいことをした


ひかりさんに身分証を見せてもらうと、彼のプロフィールが書かれていた。


桜田さくらだ晴彦はるひこ

17歳

Gランク探索者

探索者登録日:2023年 11月21日


「生きていればぜひとも会ってみたかったです」


「ではオーガの魔石を回収し、今回は撤収します」


「分かりました」


「みなさん今回の配信は一度終了しますね」


:お疲れ桜ちゃん

:またね


その日私はベットの中で後悔していた。

最近伸び悩んでいたチャンネルを何とかするために、無理をして下層に潜ったのが原因だからだ。

もし私がそんな行動に出なければ、あの男の子は死ななかったのだろう。


私はこの日取り返しのつかない罪を犯してしまった。










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