第20話 海辺海中試練洞
雨が降ってきた。
こんな時のために宿題の準備もしてきた子供たちは、公民館でテキストを開いて宿題を始める。
シズカやスイレンはお茶を準備してあげて、課題につまづいている子供たちの手伝いをしてやっていた。
皆また晴れたらすぐに海に行けるよう、水着の上に上着を羽織っている。
「シズカお姉ちゃんって、頭もおっぱいもすごいんだね!」
「コラ!何言ってるの」
小学低学年の男の子は遠慮がない。少し上の女の子がたしなめるが、その目はシズカに釘付けだ。
「そうでしょ?でもまああんまり口に出して言うものではないわよ」
これくらいのラインならシズカはスルーしてくれる。そういう線引きをしてくれた男児が今日の殊勲賞だ。
雨はなかなか止まない。雷も酷くなってきた。
「今日はもう海ないね」
スイレンは子供たちに順番でシャワーを浴びさせるべく、中3女子たちに指示を出し始めた。
「ミホは?」
そう言えばさっきからミホの姿が見えない。やりかけのテキストが開いているから、ここにいたことは確かだ。
「たぶんあの岩の所だ。私見てくるよ」
「シズカさん!」
シズカは雨の中、海に向かって駆けだした。いやな予感がする。
岩までの道のりは、朝の時間は海水に隠れていた岩場が露出していたので、特に苦労せずたどり着くことができた。
「スイレンちゃん?ミホはたぶん、この飾りが付いた岩の洞窟に入っていったんだと思う」
シズカはまとめ役のスイレンに電話をした。
シズカが言ったとおり岩には洞窟があり、ずいぶん深く続いているようだ。
「私が入って探してくるよ!」
『シズカさん!お願いするわ。でも気をつけて。その洞窟は「海辺海中試練洞」と言って、入った人は必ず大けがをして来るの』
そんな洞窟、さっさと封鎖しなさいよ。とシズカは思うがミホが入ってしまった以上行かない選択はない。
「大丈夫よ。私、実は強いから。山田には内緒よ?」
洞窟の中は地面が平らで、どういった手段か洞窟の中なのに真っ暗ではない。つまり人手による整備がなされたことを示している。
かなり歩いたところでわずかな空気の流れをシズカは感じ取った。
「乾燥した空気の流れ……何か設備が稼働しているんだ」
さらに先に明るく、洞窟が広くなっている場所が見えた。ミホはそこにいる確率が高い。
そしてシズカがそこで見た物は実に馬鹿げた狂信者の施設だった。
ミホは禍々しい装飾がされた椅子に座らされすでに意識はないようだ。
ミホが座らされている椅子を中心に、地面に円形の複雑な図形が描かれていた。魔法陣という物だろう。
陣の周りには第三理論の実験にはあまり見ない機械類が置かれ、白衣の作業者達が十名ほど忙しく動いている。
洞窟の奥、他より明らかに高いところに首領とおぼしき「怪人」が何か喚いている。解読して調べるべきだが、ミホが捕まっている時点で
シズカはわざと大きな音を立てて、その広間に現れた。
「ねえ、あなた達。その子をどうするつもり?良かったら返してあげてほしいんだけど?」
いきなり現れた、水着お姉さんに一同は動揺するが、首領が手で制する。
「これはこれは、美しいお嬢さん。こんな所に迷い込まれたのですか?私としては外に帰して差し上げたいのですが、この儀式を見られた以上はそう言うわけにもいかないのですよ」
「それは……困るわ。それに、あまた達は誰なの?」
白衣の作業者達がゆっくりと距離を詰めてきている。科学者風の細めの連中だが、かなり強いだろう。
つまりは地球人ではない……。
「バグソス人達、今日は何を騒いでる!」
膠着した場に、少女が一人現れた。
「スコップ……」
「あ、シズカさん」
シズカは瞬時に悟った。
ここは海辺高校の洞窟群だ。距離と方角からして間違いはないだろう。なる程スコップがいるのも納得できる。そして、洞窟の住人は皆さん異邦人だということを。
スコップは瞬時に悟った。
シズカは馬鹿だが、悪ではない。基本、他人に迷惑はかけないのだ…………?対するバグソス人は迷惑の固まりだ。洞窟の共同生活の中でルールを守ろうとしない。シズカの戦闘力は恐らく彼等を上回る。今こそ害虫駆除のチャンスだ!
「お隣さんか……大人しくしていろ。この女を排除してからお前の洞窟も乗っ取ってやる!」
「スコップ、私が隙をつくる。その間にあの女の子を助けてあげて!」
「ええ~?しっかり時間作ってよ?」
「馬鹿め、目の前で作戦など……」
首領が言い終わる前に、シズカが動いた。
後ろまで来ていた作業員を首領の方へ蹴り飛ばす、怯んだところで他の2体を機械へ叩きつける。
時間とルートは確保した。スコップは難なくミホを連れ出すことができた。
「おのれ……後少しでバグソス様の復活が成ったものを!許さんぞ!」
首領が叫ぶとどこからか戦闘員が大勢出てきた。白衣より明らかに強そうなので、戦闘専門の個体達だろう。
「いくら強いとはいえ、相手は女で丸腰だ!全員でかかれ!ただし、殺すなよ……礼はたっぷりしてやらねばならんからな」
首領はいやらしく笑った。
「私が丸腰で戦うなんて、誰が言ったの?」
シズカの両の瞳が金色に輝いた。
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