第19話 海水浴場当番の日

 シズカは海に来ていた。

 遊びではない。最近できた友人のスイレンに請われてやって来ているのだ。

 何でもこの辺りの高校生までのお兄さんお姉さんは交代で、子供達が海や山で危ないことをしないか当番で見守る事になっているそうだ。

 基本暇だし、宿題の集まりも夕方からなので、友人を助けると思ってシズカも参加している。

 当然海に入るので水着だ。シズカは特になんと言うこともない漆黒のビキニタイプ。太陽よりも眩しい白い肌。すらりとした長い手。闇色の水着に隠されたバストが作る地獄の谷は見る者の魂を吸い込み逃さない。鍛えられくびれた腰にカワイイおへそ。張りのあるヒップと最重要防御区画ばいたるぱーとを護る暗黒の布からは、しなやかな脚と長い尻尾が延びる。長い黒髪は複雑に編み込まれ赤いリボンでまとめられている。どう見ても田舎の小さいビーチには居なさそうな綺麗なお姉さんだ。シンプルすぎる水着でさえR15並み。

「シズカさん、非常ステキなお姿なんですけど」

「やっぱ、チョット派手かな……」

「いやいや、それよりシンプルってもはや裸族よ?じゃなくて、尻尾どうしたの?やっぱり猫だったの?」

 シズカさんのステキなお尻から生えている尻尾は、本物のようにニョロニョロ動く。

「これね~」

 ニョロニョロ。水着からどうやって出しているかはあまり見ないこと。

「スコップのやつに一服盛られてね」

「スコップ……さん」

「あ~私の友達よ。変な薬作るのが仕事でさ」

 一服盛られたとは言っているが、昨夜の酒盛りで酔っぱらった二人が合意の上、「せーの」で飲んだ薬だ。スコップにも今はフサフサの犬しっぽが生えている。しかし仲良いな、あんた達。

「まともな人なの!?」

「?意外と」

「ならいいけど」

 シズカさんはもう大人なのだ。子供の自分が心配しても仕方ないだろう、スイレンは諦める。

 それよりも仕事だ。

「みんな~集まって~」

 スイレンは周りの子供達を呼ぶ。来ているメンバーを確認する。子供達も慣れたもの。毎年のことだし、順番に繰り上がっていくのだ。何年後かの自分の番に楽になるように下の子は仕付けいく。

「後から来る子は?」

「アツシが来るって!」

「は~い。で、今日はさっきから分かってるだろうけど、シズカさんが来てくれてます~」

 ワーッと拍手。

「シズカさんはこの辺のことあんまり知らないから、みんな教えてあげてね~」

「は~い」

 早速質問責めにあうシズカ。大きめの子供達は男女、シズカの威厳におそれをなして近付けない。小さい子供達はそんなの関係なしだ。でも近づくとシズカの顔が(威厳で隠れて)見えないから、少し遠巻き。

「まだだよー。ちゃんと体操してからね~」

 そして一同は小さな浜辺で広がって、変な踊りを踊るのだ。ラジオ体操第二とも言う。

 猫ではあるが進化しているので水は平気。そうでもなければ浜でカニと戯れてニャーニャー言うしかなく、海回には呼ばれないだろう。

 子供達と海の浅いところでニャーニャー戯れていたシズカはさっきから気になっていたところがあった。

「ねえ、あそこの飾りが付けてある岩ってなに?」

 隣の女の子に何気なく聞いたのだが、皆黙り込んでしまった。

「……そろそろシズカにも話しておく頃合いかも知れぬな」

「駄目だよミホミホ!シズカさんは余所の人だ!」

「そうだよ!こんな呪いを受け継ぐのは僕たちだけでいいんだ」

 え……何のノリ?呪いとかなら、別に知りたくもないし……。

「あ、気にしないで。何かなって思っただけだから!詳しく聞こうなんて思ってないから!あ、コラ何するの」

 いきなり子供達がシズカの腕や腰に取り付き、自由を奪う。

「聞くのじゃシズカ!」

 ミホミホが目を見開くと、晴れていた空に突然黒い雲が湧き、雷鳴が轟く。

 何故かミホミホから目が離せないシズカ。

 スイレンが叫ぶ声が聞こえたのはその時だ。

「シズカさ~ん。その子達まとめて公民館に引き上げて~」

「え?ああ、うんわかった!せっかくだけど、雷なら仕方ない。皆上がるよ」

 せっかく面白くなってきたのに……子供達は残念がりながらも海から上がり荷物を持って、浜から道を挟んで建っている公民館に避難する。

「ミホ、行くよ」

「うん……」

 小芝居が終わった後でも岩山を睨み続けるミホ。シズカも何かモヤモヤした気分で同じ岩山を見る。何か、あの奥にあってはならない物が潜んでいるような気がするのだ。敵が展開している森の中を進むあの感触に似たものだ。

 再び雷鳴。

「きゃ!」

「にゃ!」

 二人は我に返り、急いで公民館へと避難した。

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