第17話 喫茶グリモワール
喫茶グリモワール。起眞市南区の繁華街に古くからある喫茶店だ。こだわりのコーヒーとこだわりの女給服がこだわりだ。
近頃ここの自家製タルトが人気らしい。
何でも極最近、美少女二人が美味しそうに食べているのが目撃されて以来流行りだしたのだという。まあ一人はシズカさんで、もう一人は目一杯オシャレしたスコップだ。
「ここだよ!」
南区の流行最先端は中央区とかでは普通だが、海辺町の住人からすれば先端過ぎのロックンロールだ。山田は大好きなシズカさんにロックなタルトを食べて欲しかったのだ。
「うわぁ……」
例えば、例えにはならないだろうが、悩み抜いて決めたプレゼントを、相手がもう持っていて、それが自分の知らない友達から貰ったのとか、ニッコニコでカミングアウトされれば、自分ならどうするだろう。
「シズカ、あなたのためのデートって言っておきながら、実は私も食べてみたかったんだ」
えへへと照れ笑いする山田が可愛すぎる。シズカ視点。
「私も楽しみ。アリガト山田。あ~ごめんちょっと電話が……!」
窓からチラリとミップルが見えた。隠蔽工作を依頼すべく、山田に断ってから道の端で店に電話する。
『はい、喫茶グリモワールです』
「忙しいところすいません、私、シズカです!ミップルじゃなくて三井さんと急ぎのお話が……!」
「お待たせ!行こうか!」
シズカはわざとらしく山田の腕に自らの腕を絡ませてイチャイチャ入店する。
「いらっしゃいませ~お二人ですか~?」
ニヤニヤ
「ええ」
「お好きなお席へどうぞ~」
ニヤニヤ
「……店員さん、凄い笑顔ね……」
「そうね……さぞかし楽しいことがあったんでしょうね!」
「シズカ?」
「何でもないよ」
シズカは流れるように淀みのないステップで山田をエスコートする、いつもの席に。
「あ、ありがと。なんか慣れてない?」
「ソンナコトナイヨ?」
ニヤニヤ
「こちらメニューになります~お決まりの頃にまいりますね~」
ニヤニヤ
「シズカは何にする?」
「私はアメリカンとお勧めタル……」
しまった、デートだった。一緒にメニュー見てキャッキャするのが定番……。
「……トは何かしらね。ほら、三種類あるんだって」
「ホント……どうしよう」
「悩む山田可愛い……そうだ、三つとももらって分け分けしようよ」
「シズカ、名案!さすがお姉ちゃんだわ」
「お決まりですか~」
ニヤニヤ
お澄まししているつもりが、非常に複雑な表情なシズカとこちらもひとこと言いたそうな笑顔のウエイレスさん。
「ドリンクは?シズカはアメリカンって言ってた?私、コーヒーの味ってよくわからないし」
「こちらのお客様もきっとわかってらっしゃいませんよ?」
「え?今なんて?……あ、三井先輩?」
山田の視線がミップルに向いた瞬間、シズカもミップルを睨みつける。
「ヤッホ~山田さん。ごめん、今の人違いね。ミルク系なんてどうかな、ミルクセーキとか」
スコップなら失神するレベルの睨みだが、ミップルには微風だ。
「あ、良いですね。私それにする」
「それでは準備しますね~」
最後までニヤニヤと、ウエイレスは去っていった。
「なんて店員よ!」
「三井先輩、友達多いから間違っちゃったのね~。でもシズカみたいに美人の人なんてそうそういないんだけど?もしかしたら噂のタルト美人ってその人かもね」
山田正解。
「この後どうしようか。定番ならショッピングか映画だね」
「じゃあシズカ、私に服を選んでよ」
「え!?さすがにその色の組み合わせって出尽くしたんじゃ……」
新顔、焦るシズカ。
「色は私のこだわりであって、シズカは私にどんなのが似合うって思ってるのかということよ?」
プンスカと怒ってみせる山田。甘えて拗ねてるとも言う。
シズカはちょっとプルプルしていた。
お父さんお母さん。ちょっと遅かったけど私青春してる!
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