第16話 山田とシズカ
「まずいなあ」
夏休みの間、シズカのお世話を任されていたはずが、最初の一週間しか相手してない。その後は何故か勝手に仲良くなっていた、幼なじみ達が面倒を見てくれている。
「よい傾向なんだけど、私が関わってないのが実にまずい」
山田はお世話係になったため、様々な優遇措置を受けていた。夏休み宿題の減免、交際費と称してお小遣いアップ。海とか川とかの子供達の見守り係りの免除。因みに幼なじみの三人にはそのような優遇はされていない。と言うか優遇があることを知らない。
「ちょっとデートにでも誘ってみるか」
軽く言ってはいるが、山田はシズカの事は大好きだ。何なら子供を産んでも良いくらい。優先度は二番目だけど。
どこに行こうか、デートと言えばスイーツだろう。ちょっと街にでて、学校で誰かが話してるの聞いた喫茶店にでも行ってみよう。
そうと決まれば行動だ。山田はよそ行き用に少しお洒落してシズカハウスへ向かった。
註1:街と言っても所詮南区だ。でもアーケードの商店街があるぞ。
註2:オシャレしても配色は変わらない。でもスカートだぞ。
「シズカさーん」
呼び鈴を押して大声で叫ぶ、それがこの街の作法だ。
『あ、山田~!!お庭に回って待ってて~!』
声だけでこうも嬉しそうにしてくれるシズカに山田も嬉しくなった。
山田が庭に回ると、カタダシショーパンツインテの女の子が抱きついてきた。
「山田~!」
「シズカ!?」
「逢いたかったよ~!」
一週間見ないうちにえらく感じが変わってる。まさに『男子、三日会わざれば刮目して見よ』である。猫姉さんだが。いや、なんか若く見えるメークでもしてるのか、美猫少女になっとる。
シズカの気が済むまでマーキングされ、リビングに上がる。
「山田、今日はお洒落してるね。すごく可愛いよ」
「シズカも可愛いけど、どうしたの?」
データが古い山田はシズカと言えば和装と思いこんでいた。今、海辺町で最もシズカ情報に疎いのが山田である。
「
「グヌヌ……」
お洒落に関しては、色制限のある山田よりスイレンのほうが遥かに優れている。比べるのも失礼だ!
山田はシズカの生腿に頭を乗せて、髪をワシャワシャされながら来訪の理由を告げる。
「ちょっと街にデートに行きませんか?逢いに来なかったお詫びもかねて、なんだけど……」
「行きます、行こう、行くとも!」
素晴らしい食いつきだ。誘った甲斐がある。
動き出そうとする山田。だけど頭をがっしり掴まれて、シズカの生腿から動けない。
「山田」
「動けない~」
頭を真上に向けさせられる。ツインテールの先が山田の頬をくすぐる。
「チューしたの?先輩と」
先輩について合宿に行ったことが知られているのに驚いたが、それよりも冷やかしでない、真剣な目で見られていることに鼓動が高鳴る。
「してないよ」
チューつまりキス。山田をじっと見ているシズカの唇は柔らかそうで、とても甘そうだった。
「しちゃおうかな?」
「……シズカがしたいなら」
「……」
ぺち。
山田はおでこをたたかれた。
「さ、お出かけしましょう」
シズカは山田を優しく起こし、クシャクシャになった髪を優しく梳いてやった。
「甘いものは、スイーツの後にとっておこうね、山田」
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