第14話 喫茶グリモワール
起眞市南区の中心街、とある喫茶店にて。
時空監察官の猫姉さんことシズカは指定されたその店に入った。
「いらっしゃいませ!」
「えーっと、待ち合わせしてて、なんか奥の席に座ってる……」
「かしこまりました。ご案内いたします!」
連れて行かれたのは、他の席と少し離れて観葉植物で目隠しされている区画。
シズカを待っていた先客は謎のスクロール売り「スコップ」だった。
スコップの前に座り、手早く注文をすませた。
「えらく可愛い格好してるじゃないの。似合うわよ」
「この店のオーナーとの契約でね。ここに来るときは可愛くして来いって。和装のシズカさんに合わせたつもりだったけど、まさかシズカさんが洋装しかもヘソ出しとは思っても見なかったよ」
「それが、最近若い女の子と知り合いになってね。若者ファッションを教えてもらってるのよ」
「ま、シズカさんのスタイルあってこそだね、良いセンスしてるよ、その子」
ひととおりお互いを誉め終わる頃に、オーダーしたものが運ばれてくる。
「お待たせいたしました。アメリカンと温州みかんのタルトです」
「ありがとー。」
ここは目一杯の笑顔を作っておく。大袈裟にしておかないと、地球人には感情が伝わりにくいから。
「おいしそうね~。コーヒーも良い香り……」
「……大丈夫なの?」
「え?何?」
「みかん、大丈夫なの?」
「みかん?好きだけど?」
「猫でしょ?キミ」
「ああ、そうね?でも大丈夫。私、南ニャタリアの血が入ってるから」
「判らんけど、大丈夫ならいいよ。僕はちょっと苦手だけど」
「今度、定期便に薬入れてもらおっか?そういうの有るよ」
「さすがにそっちの薬は合わないよ。でも興味はあるな」
「オッケ、頼んどく」
「それで?今日は何かあるの?」
実はこの二人、出合ってからこういった密会を幾度か持っている。
「山田が部活の合宿に行くから、二三日留守にするって」
「あれ?姫は部活はいってなかったはずだけど」
「だよ」
「あの子のことなら何でも調べてると思ってた」
「それが、最近ストーカーの知り合いができてね。何でも度を超すと気持ち悪いなって思ってきて」
「あんまり調べてないってか。何その知り合い。早く縁切りなさいよ?」
「……そうね、早めに消すわ」
「いや、そこまでせんでも」
「でもね、山田が出るときにギュッてしてくれて、シズカ構ってあげられなくてゴメンねって」
「これがチョロイン。勉強になる。さすが超先進国家のエージェント」
「恋人が寂しがってるって判ってるの、あの子」
「恋人?キミたちそうなの?」
「貴女が言ったのよ、スコップ。山田は恋をしていて、どうやら相手は私だって」
スコップはチョロインの力を見誤っていた。完全に誤解している。でも、姫のほうもその気がある?
「確かに、姫は恋をしていると言ったけど、相手がキミだとは一言も言ってないよ。あの時は仕返しを込めて、そう勘違いするように誘導は確かにしたな……」
「キサマ……」
「シズカさん、爪、爪引っ込めて!それと口調!」
シズカクローは乙女の柔肌くらいは簡単に切り裂くのだ。しかもなんか山田のことになると沸点低すぎる。
「お~い、ミップル」
「追加のご注文ですか?」
「ああ、姫が今日から部活で合宿なんだ。何か情報はないかい?」
「写真部の合宿について行くみたいですよ。あこがれの中野先輩がいますから。まだ姫の片思いってところです」
「ありがとう、十分だ……シズカさん!?」
いきなり相思相愛を否定されたシズカさんには全く十分ではない。鬼の形相で給仕のミップルに詰め寄る。
「海高の情報屋ミップル。二年の三井さん……対価は払おう。合宿はどこで行われる?」
「おい、それを聞いてどうする!」
「対価は不要よ。貴女のその姿で充分です、シズカさん」
あ、またやってしまった。と焦るシズカにスコップは呆れ顔。
「普段のお淑やかなシズカさんも素敵ですけど、格好良いシズカさんもいらっしゃるのですね……ホント、可愛いお姉さま。安心してください、中野先輩は憧れの存在で終わってもらうことになっていますから」
「消すのか……?」
「どうしましょう?」
「今が静観するときならば、私も付き合う。その時が来たら私が手を下すよ、君たちが汚れることはない。私は今更だし」
こいつ、本当にヤバいやつだったのか。シズカも仕事上荒事にかかわっているのだろうと思ってはいたが、実行役もしていたとは。スコップは内心焦る。
洞窟での静かな暮らしが懐かしい。「静か」だって?その名前、詐欺だろう。
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