第12話 幼なじみに宿題を教えてもらおうとしたら猫姉さんが誘惑してくる件。え?男の混ざっているハーレムなんて拒否します

「山田はいないよ」

 シズカは縁側に続いている居間に三人を上げ、冷たいカル○スを出す。

「あ、いただきます」

 庭に面したガラス戸を閉めると、先ほどまでうるさく鳴いていた蝉の声は驚くほど聞こえなくなった。

「そうだ、シズカさん。これご挨拶に……」

 三人が持ってきたので、手土産は結構な量になった。

「ありがとう。せっかくだから皆で頂きましょう」

 お昼ご飯にはまだ早い、いわゆるお十時だ。

 佐久間の持ってきた羊羹を緑茶で。

 正座に慣れていない子供達が足を崩して座るのに対し、シズカは姿勢良く正座だ。フォークで小さく切って食べる姿も美しく、子供達が見とれていると、シズカが話を切りだした。

「今日は何のご用?」

「そこの、佐久間が」

 いち早く我に返ったスイレンが今日の襲撃の主犯を暴露。ヤオハチも続く。

「山田がシズカさんにベッタリなのが気にくわないと」

「いや、宿題が」

「黙ってろ」

 ヤオハチは佐久間にいつもの言い訳を言わせない。もう高校生なのだから気持ちの整理をしてもらいたいものだ。もし本当に宿題だけが理由なら気持ち悪いなと思っていたりはする。

「佐久間は毎日の宿題を理由に、ゆうきにまとわり付く真正のストーカーなの」

「なる程、山田に君達のことを教えてもらってたんだけどさ、流石にストーカー呼ばわりはどうかと実は思ってたけど。本当だったのね」

「つきまとってはいるけど!宿題は本当だし、ゆうきの都合が悪いときは無理強いしていない」

「だいたい宿題で気を惹くって、小学生とかじゃないんだから!たまにはデートとか誘ったらどうなの」

「そういう感情とかはなくて……」

「無理あると思うぞ?」

「はいはい、ここは恋愛相談所じゃないから。甘酸っぺー青春群像劇は学校でやりなさい。レポートは要らないよ」

 大人なシズカさんには青春ってのは眩しすぎた。時空監査官でも、こればっかりはやり直せないのだ。

「でどうするの?お終い?」

「そうだった。佐久間のためにも山田を独り占めしないでくれって話だった」

 お願いだけはしておかないと。ヤオハチは友情に厚い男だった。

「それはごめんなさい。山田を可愛がることをやめる気はないわ。分かるかな、そうね……君たち風に言うと「どストライク」なの。とても好き」

 真顔で即答だった。

「しかしそれでは僕の宿題が……!」

「宿題が心配なら、私が教えてあげようか?どうせ暇だし」

「シズカさん頭良いの?」

「……まあ共通の、数学とか物理化学とかなら。外国語は、結構変わっちゃってるからムリかも」

 理系科目だけだと、日本でいう中堅クラスの理工系大学終了程度の知識は脳に直接書き込まれ済だ。英語はヤマダのテキストを見る限り、千年のうちにかなり変わっていて、シズカの知識の中の英語力では宿題を教える役には立たなそうだった。

「オレ、シズカさんに教えてもらおうかな……」

「私も……」

「僕は……」

 よく知らない綺麗なお姉さんに夏休みの宿題を手伝ってもらうなんて、ちょっとエッチなマンガのシチュエーションによくあるヤツだ。少年と少女はドキドキの夏がくる予感でドキドキだ。ストーカーでさえ心が揺れ動く。

「ストーカー君、山田は来ないよ」

「え?」

「だってここ私の家だもん」

 山田はシズカを置いて学校に行ってしまって、一日帰ってこないらしい。部活動も補習もない山田は夏休み中に学校に行く用事など無いはずなのだが。

「まあ今日は私で我慢しなさい。私は山田のお願いで君たち達と仲良くなる必要があるの。ここで宿題をしていってくれると助かる」

 シズカはそう言うと、全員の食器を下げるため立ち上がった。

「この部屋を使って。部屋の温度は好きにしてくれて構わない。お手洗いは廊下に出て向こうね。ヤオハチ君、この布巾で机を拭いてちょうだい」

 ヤオハチがテーブルを吹き終わる頃に、シズカは冷たいお茶をお盆に乗せて戻ってきた。

「とりあえず自力でやってみること。聞きたいことがあれば声を掛けて。私は庭で仕事があるから。あ、他の部屋には入らないでね、未だ荷解きが終っていないから」

 そう言うとシズカは庭に出た。また蝉取りの続きをするようだ。

 その姿を見つめる三人が、さっきから気になっているのは、縁側に置いた、蝉がいっぱい詰まった虫かご。

「あれ、何に使うんだろう」

「使い道なんてないだろ」

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