第11話 シズカ討伐隊

 夏休みの宿題のこなし方は人それぞれだ。

 休みが始まってすぐに終わらせる人、提出期限までにしれっと終わらせる人、そして最も愚かなのは特に計画せずに進めていき、最終日で猫ロボに頼る人。

 佐久間はそのどれでもない。宿題はゆうきの家に遊びに行くための口実になってくれる小道具にすぎない。提出?した覚えがない。

 そんな佐久間、今年は宿題の進みが悪い。

 原因はわかっている。スタイリッシュ猫姉さんこと、シズカさんのせいだ。

 夏休みに入ってからもゆうきの事はよく見かけるのだが、いつも側にシズカさんがいる。それはもう、ベッタリだ。面白いかどうかで言うと当然面白くはない。

「抗議が、必要だ」

 実は佐久間、さすがに親に怒られて、今年からは提出物パーフェクトを達成しなければならない。ゆうきの協力は絶対必要だ。

 佐久間は宿題セットをもって家を出た。親にはおやつを持たされて。当然親は黒猫の会会員だ。


「佐久間!」

 佐久間の家から旧山田旅館までは商店街を通る。当然ほとんどが顔見知りで、店の手伝いをしているクラスメートとも出くわす。

八百屋ヤオハチ……手伝いか。えらいな」

「まあ、大した戦力にはならないけど。なんか動いてないと落ち着かないし」

「部活は?」

「今週はなし。でもあとでプール行こうかってなってる」

「いいな」

「佐久間も来れば?」

「宿題が終わればね」

「ああ、今から山田のところか。お前も好きだね」

「今日は違って……シズカさんのところに抗議に行くんだ」

「ああ~、なる程」

 山田とシズカのべったり具合も、佐久間の山田への執着もどちらも見ているヤオハチは即座に理解した。一人で行かせてもあまりいい結果にはならないことも。

「オレも行って良いかな?」

「良いけど。戦いか勉強かどちらかになるぞ、準備しろよ。それと、手土産も」

「待ってろ」


 お供を一人付けた佐久間がどんどん進んでいくと、花屋で少女に声を掛けられた。

「佐久間!ゆうきのところ行くの?」

 佐久間=>山田は界隈ではよく知られた常識だ。

「いや、今日はシズカさんのところだ」

「抗議に行くんだってさ」

「ヤオハチ。君も?」

「オレは純粋に宿題を消化しに」

「……あ~、君もたいがい世話焼きね。じゃあ私はシズカさんを見に行くという口実で、一緒に行こう」

純情スイレンも来るのか?わかっているだろうか、突然の訪問だ、手土産を忘れるなよ」

「佐久間達は何持って行くのよ?被らないようにしたいわ」


 三人となったシズカ襲撃隊は商店街の真ん中を堂々と歩く。襲撃者が仲間だと思っている2人は実は調停者だが。そう時間もかからず、シズカ邸の玄関にたどり着いた。

「ごめんくださ~い」

 まずはスイレンの出番だ。無害そうな女の子で警戒心を解くのはどんなときだって常套手段。

『庭にいるわ~回ってきて~』

 軽い返事が奥から返ってくる。

 女性の一人暮らしが、来客の確認もせずこう簡単に通してよいものか。幼い頃から他人を警戒するよう教えられている三人は戸惑う。そして別に、一人を除いてシズカに何かするつもりはないのだから、家主の希望通り庭に向かう。

 そこにいたのは、巨大な猫……ではなく、虫取り網をもって庭木を睨みつける、シズカさんだった。

 彼女は来客を動かないよう手で制し、

(座って待ってて)

 と小声で言うと、いきなりジャンプして虫取り網を庭木にたたきつける。

「ニャッ!」

 蝉、を捕ろうとしていたのだろうが、慣れない網捌きでは蝉は逃げていってしまう。

 舌打ちが聞こえる。今のシズカの格好も含め、少し、初対面のイメージと違うなと三人は思った。

 いつも浴衣というか和装のシズカが、大きめのTシャツにデニムのショートパンツを履いていて、長い黒髪も頭の後ろで一カ所紐で縛っているだけのいわゆる何とかテール系。若いお嬢さんの夏用ラフ衣装になっていた。

 シズカが網を置いて縁側に座っている三人のところにやって来た。

「この前学校で見かけたね」

 服の隙間から見える、うなじと胸元、それに太ももの白さが眩しくて、成り立ての高校生には少し刺激が強い。

「あなた達のことは山田から聞いているわ。えっと……」

 端から順番にビシッと指を指していく。

純情スイレンちゃん、八百屋ヤオハチ君、佐久間ストーカー

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