第9話 我が呼び声に応えよ黒猫

「あれ?教頭、彼女とお知り合いですか?」

 ちゃっかり同席している間宮教諭は混乱していた。

 山田としては、たぶん面識はあるだろうなとは思っていた。教頭の家はシズカハウスの隣だから。山田たちのような道向かい、つまり玄関どうしのお隣さんではなく、裏庭が接する、一番のお隣さんだ。

「ええ、浜さんには引っ越してきて一番にご挨拶させていただきました」

 猫姉さんなシズカも可愛いが、シズカはやっぱりカッコいいお姉さんがよく似合う。山田はお姉さんがほしかったのだ。両親には悪いが。


 間宮教諭そっちのけの歓談が始まった。他の教諭たちもウワサのシズカさんと交流を持とうと集まってきて、急きょ空き教室でのお茶会となったようだ。教頭が良いと言っているので良いのだ!

「シズカさん、私用事あるから、行くね」

「あ、うん……ちょっと待って山田」

 シズカは椅子から立ち上がって山田をぎゅっと抱きしめる。

(何かあったら、私を呼ぶのよ)

「……!は、ハイ!」

 山田は真っ赤になって、逃げるように去っていく。

「シズカさん、今のは?」

 外国人だからスキンシップが大げさなのか?あまり校内でやってほしくはない行動ではある。山田がちょっと羨ましい間宮。

「おまじないですよ……」


「びっくりした……」

 布団の中では散々自分から抱きついていたくせに、山田は焦っていた。衆人環視のもと突然抱きつかれれば仕方がない。

「どうしたんだろうシズカ、なんか真剣だった」

 こらから行うことは確かに絶対安全ということはない。シズカはそれを知らないはずだが。山田は自分の不安が顔に出ていたかと反省する。

 山田は校舎裏にある洞窟に向かう。100近くある洞窟の中の一つ、24号窟が目的地だ。

 特筆すべき事のない平凡平和な田舎の学校だが、それはそのように見せようとしてきた歴代関係者の努力の結果である。在校時は気付かなくても、卒業すればおかしかったことに気が付き、自然と口をつぐむ。

 山田が向かう24号窟はその代表的な一つだ。ここには数十年前からとある「生徒」が住み着いている。

 その生徒は当然、正規の生徒ではない。そう何度も会うわけではないから、山田が子供の頃遭遇した生徒と、今の生徒が同一人物かは分からない。セーラー服は着ているが、着慣れ感が全くない。

 そんな生徒はこの洞窟で、「スクロール屋」なる店をやっていた。スクロール、ゲームでおなじみの魔法の巻物だ。使用すれば本当に魔法が使える。少なくとも現代科学以外の何かの力が発揮される。例えば、悪霊なんか消滅させたり。

 対価は「乙女の生き血」。いかにも魔法の素材らしい。吸血鬼のようにガブリとやるわけではなく、きちんと使い捨ての採血セットを使うので、もうなにが本当かわからない。

 ただ量を持って行かれるので、身体への負担は相当ある。

「ふふふ……来たね、山田ゆうき。我が愛しの姫、黄金の血液を持つものよ」

「先輩も相変わらずですね。退魔のスクロールを五本お願いします」

「五本か……君の血でも五本は辛いのではないかな?抜き始めると止められないよ?……まあ、死にはしないが」

「今日は、連れて帰ってくれる人と一緒に来てるからね」

 身体を寝台に横たえ、採血用のチューブを左腕に刺される。異物感は若干気になるがどうという事はない。今日も雑談をしているうちに終わるだろう。

「ああ、聞いているよ。シズカさん、だろう?」

 チューブを閉めていたクリップが外されて、山田の血液がパックに少しずつたまっていく。

 なぜか薄れていく意識。山田は何かあったら呼ぶようにと言ったシズカの顔を思い出した。

「シズカさん。……時空監査官のね」

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