第7話 焼き鮭と醤油と子猫
山田は温かいものに包まれて目を覚ました。
昨夜はお話ししながらいつの間にか寝てしまったようで、この顔に当たる温かく柔らかい物の正体も何となく分かる。もうちょっといいか。なんて思い、寝相の振りをして埋もれなおす。まあ寝ぼけてはいるのだ。
シズカはすでに起きていた。
腕に抱かれ、無意識に甘えてくる可愛い妹猫を眺める。
山田ママは娘の部屋で寝ている二人を見下ろしていた。
情事の跡はないし、ただ仲良く寝ているだけだろう。客室で寝ていたはずのシズカが娘の部屋にいるあたりは気になるが。
「お姉ちゃん……」
娘は、布団の上からでも恐ろしくスタイルが良いと分かるこのシズカのことをたいそう気に入ったようだ。最近は妙にクールぶって甘えてこなくなった娘。妹弟なら幾らでもこさえてやるのだが。
シズカは相変わらずの無表情。でも今は嬉しいやら緊張やらが混ざった顔なのだと、何となく分かる。見られていることにもとっくに気付いていたようで、視線を一瞬向けてくる。
「ゆ……ゆ……、ゆうき。そろそろ起きよう」
「ん……!」
ねぼすけが抱き枕にしがみつく。
「山田、お母様が見てるから、あんまりしがみつかないで……」
「ママ!?」
やはり確信犯だった娘は、飛び起きた。
「どうしてシズカちゃんがあなたの部屋で寝ていたの?お母さんはそこが気になる」
家族はとっくに家を出た、少し遅い朝食。
ボサボサの髪もそのままに並んで朝食をいただく。
「1号室のアイツが調子に乗って、おね……シズカにイタズラして。聞こえなかったの?シズカの悲鳴」
「えっと、そうね……聞こえなかったわね」
「そうなの?」
仲良し夫婦には聞こえなかった事情があったらしい。
「それで、シズカが怖いって言うから私の部屋に」
山田は鮭の塩焼きに醤油を垂らす。シズカが声にならない悲鳴をあげる。ママが娘の頭を叩く。
「事情は分かったわ。それじゃ最後の使っちゃったのね」
「もったいなかったけど、頭に来たから使っちゃったわ」
「何?使ったって」
「昨日の、アイツを消した光るやつ。悪霊にメッチャ効き目あるんだけど、手に入れるための代償がな……」
「切らすわけにはいかないわね。ゆうき、夜までに貰ってきなさい」
「は~い」
身を解した焼き塩鮭の醤油漬けをご飯に乗せてかき混ぜ、豪快にかき込む。
「ゆうき、それやめなさい」
湯呑みの、ぬるくなったほうじ茶を一気に飲み干して、山田は宣言した。
「ごめんシズカ。昨日言ってた予定を早速変更させて。私用事ができた」
シズカのお家で2人っきりの勉強会。残念ではあるが、これ以上の醜態をさらさないためにもクールダウンの期間は必要だ、お互いに。
「まあ良いけど。どこか行くの?」
「学校へ……!」
右手を突きだし、お箸であらぬ方向を指し示す!
「ゆうき、お箸を振り回さないで」
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