第6話 設定を出し尽くせ

 当然ながら客室が嫌なシズカは山田の部屋に転がり込んだ。山田もガタガタと震えるシズカを放っておくことも出来ず、窮屈ではあるけど同じ布団に潜ることになってしまった。時空監察官シズカ、またもやイベント達成である。

 背中は向けているものの、シズカに背中から抱きつかれている山田は大変だ。町のオヤジたちが即座に見守る会を結成したその身体は、ウブな高一女子にとってはまさに凶器!

 全く違う理由で寝付けない2人。どのみち大騒ぎしちゃってもう朝方だ。寝付けないなら、お話しして過ごすことにした。


 今夜はSF寄りの設定を出し尽くそう。今後、シズカさんの生活に関係してくることはほとんどないと思うけど。

 「裏銀河」で検索して現れる数編の物語では、これらの設定がより濃く反映されている。シズカさんの暮らしていた34世紀に比べ、山田の暮らす21世紀がどれだけ不便か。一読してシズカさんの珍妙な行動の原点を知り、彼女のために泣いていただければ幸いである。銀河書房「裏銀河シリーズ合本版あとがき」より。

 

「山田たちの呼び方で言えば、私たちの太陽は「プロキシマ・ケンタウリ」。その第三惑星が私たちの星」

「……太陽系に一番近い?」

「物知りね。君たちの太陽より穏やかで過ごしやすいよ。……たまにバーンってなるけど!」

 ビクってなる山田は可愛いなぁなんて思うシズカ。すでにさっきの怪奇現象の事は忘れて余裕だ。 

「私が産まれたのは、地球歴で……34世紀ね。それで、私の方が時間的に長く生きてて、つまり山田よりお姉さんなんだよ」

「うん、最初会ったとき、綺麗なお姉さんだなと思ったもん。……シズカお姉ちゃん」

「ギニャ!」

 地球人換算で20歳のオトナなシズカが16歳の妹に致命傷を食らった。


「シズカと私たちって、違う星の人なのに似すぎてない?」

「山田の方が可愛いよ!」

「そういうのはいい」 

「可愛いのに。進化論は諸説あるんだけどね、共通進化ってのが今の主流ね。近くの星同士は似ちゃうの。地球人が猿進化で私たちは猫進化ね」

「よく分からんけど、犬はいなかったの?」

「犬進化もいたよ。まだまだ未開だったから接触はしてない。あとはやっぱり猫、猿が多いね。水棲でシャチがいたらしい」

「シャチ……」

 山田はヌルヌルつるんとしたイルカ顔の二足歩行生物を思い描いた。友達になれそうにない。

「銀河文明では、自力での宇宙進出ワープ1を目安にしてて、それが達成されたのは、私たち2種族だけ。後のはまだ数万年かかるかな~」

「ほ乳類ばっかりね」

「トカゲ系は悪いけど、進化しないように処置させてもらってる。ほぼ100パーセント侵略型になっちゃうから」

 世代交代のサイクルが早い彼らは進化にかかる時間が中型のほ乳類である猫や猿よりも速い。知能レベルで追いつかれてしまうと、あとは彼らの独壇場だ。

「銀河の裏側の仲間たちの所も、ほとんど戦争状態らしいし」


 朝になった。

 2人はいつの間にか寝てしまったようだ。仲の良い姉妹猫のように抱き合って。

 

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