第4話 潜伏大作戦だニャー!

 時空監察官シズカ、前回までの三つの出来事。

 起眞市に引越してきたシズカは時空監察官だった!海辺高校一年女子の山田がお世話係に!そしてシズカの今後の活動予定を山田の家で決めることに……。


 さて、位置情報をおさらいしておこう。

 現在彼女たちがいるのは山田家のリビング。

 山田家は過去に和風旅館を経営していたため、人が集まるリビングは当時の広間を使っている。集落の宴会場になってしまうのもこの部屋だ。

 経緯から畳の部屋が多くて、当然リビングも畳敷き。ここに大きな年代物の木の机を置いて食卓としている。山田は自分の部屋よりはここで宿題を片付けることが多い。通りかかった誰かに見てもらえるから。

 年輪が美しく黒光りするその机で、うっかりグラフの作図でもしようものなら、ボコボコガタガタの線しか引けず、関数のピークなんてどこだか分からない絵になる。それでも山田はこの机が好きだった。

 どこでも横になってゴロゴロ出来る畳の床が気に入ったらしいシズカは、猫のように丸くなって山田の話を聞いている。

 シズカは山田のすぐ横、右手を伸ばせば容易に届く位置にいる。

 意外と可愛いものが好きな山田のすぐ横に、可愛い猫姉さんが、無防備に丸くなってくつろいでいる。


 今日の話は山田がどこまでシズカさんの誘惑に耐えられるかが、カギとなる。

  

「シズカは存在がバレると困るのよね」

「ええ、相手は何百年も潜伏できる、潜伏のプロなんだから。私の活動は慎重になりすぎるということはない」

 とはいうが、シズカが来た初日に、山田にバレてしまっているのだ。彼女が想定するような巨悪の組織が、既にバレているはずだし、最悪消されているはずだ。

 だからシズカの一番の友人である山田は教えてあげることにした。

「シズカ、あなた目立っていたよ」

「え?」

「この狭い海辺町だけど、あなたを知らない人はもういないんじゃないかな」

 起眞市の辺境、海辺町は小さいけれど千人以上は暮らしている。たった一週間で、そのすべてに顔と名前を覚えられるというのは、凄い才能だ。潜入捜査官とか、そういう仕事には向いていないだろうけど。

「ニャ、ニャー……」

「そ、それも。あなた、あっちこっちでニャーニャー言ってるんじゃないの?」

「びっくりしたときとか、出てるかもしれない……」

 ま、可愛いから私はいいんだけどね。

 そういう独り言は、チョロい猫進化人間には効果が過ぎるよ、山田。

 300年後、シズカ達ケンタウリ人は計算高くクールな存在だ、と一般的に認識されている。

 実際のところ感情は豊かではあるが、猫進化のため表情筋は発達していないところがクールにみられる。

 シズカのように中身が相当チョロい場合もある。

「山田、私の任務はもう失敗しているの?」

 シズカは怯えるように山田のぺったん座りの右足にすがりつく。

「!い、いえ、あなたが無事な以上、敵組織にはまだ見つかっていないと思う……」 

「よかった」 

「これからしばらくは、海辺町のみんなにはシズカは普通の人だ、記録に残すほどの変人ではないよと理解してもらおう」

「な、なるほど?」

 それは悪手だ。知られてはダメなのに率先して存在を宣伝しているようなものでは?

 山田の言葉に一度は頷いたがシズカにはとてもいい案には思えない。

「でも山田、それでは潜伏とは言えない……」

「この町じゃ潜伏は逆に目立つの。木を隠すには森の中という諺もある。町の人間になりきった方が目立たなくなると、私は分析する。でも今のままじゃ一般的な行動からずれちゃってるから、私が!一から教えてあげるわ!!明日からシズカのお家で!!!」

 山田エクスプロージョン! 

 

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