第3話 時空監察官シズカ
起眞市南区の海に近い町に突然現れた黒髪の女性、シズカ。
彼女は1000年後の未来からやって来た、時空監察官だ。
300年後の銀河系を揺るがす一大イベント、地球政府とケンタウリ星系政府の友好条約の締結。のちの統一政府発足につながるこの行事を失敗させようと企む何者かが、300年後にこの起眞市のどこかに潜伏するという。友好条約は史実通り締結されなければならない。そのため、時空監査室はこの時代にエージェントを派遣することにした。
彼女の任務はたった一つ。
300年後に起きないはずの事件を歴史通り起こさないため、あらゆる情報を収集すること。
それだけである。
「山田何を書いているの」
「ん?夏休みの宿題……。私の場合はシズカをレポートすれば他のは免除されるから」
山田は町にある海辺高校の一年生だ。
成績優秀で、友人も多くいるが、シズカが見出した可愛さはまだ発揮されていない。
「山田、それはダメ」
「やっぱり」
「うん、私が潜伏していることが敵にばれると、歴史が変わってしまうかもしれない。奴らが動き出すまで、証拠を集めつつ潜伏する必要がある」
「はあ」
敵の正体は分からない。その何とか条約締結から千年後に資料を調べた歴史家が、警告したことが騒動の始まりだ。締結の日から300年前のこの起眞市南区に実行犯が潜伏していた可能性のある記録がでてきたという。
何ともフワフワした情報で大騒ぎして、千年後は平和なんだろうなと、山田はしみじみ思う。そんな平和が壊れるかもしれないなら大騒ぎもするかもね。納得もできる。
「でもこの町で300年後のことを知ってるのってそれ、私かシズカのことなんじゃないの?」とは絶対言わない。
シズカは続きで山田家に泊まることになった。
だからつい今まで、山田の宿題をリビングで観察していたのだ。
「シズカレポートがダメだったら、普通の宿題しなきゃ」
畳のリビングで割座、いわゆる女の子座りの山田は、大きな木のテーブルでふてくされている。
「大変ね、宿題」
「シズカの時代にも、宿題ってあるの?」
「ないねぇ。実践を伴わない記憶だけのことなら、割と早いうちに脳に書き込まれるから」
だから、この調査の仕事は楽しくて仕方ないんだとシズカは言っていた。寝間着のことだってそうだ。
シズカ達は寝るときにわざわざ衣装を変えない。だから今借りているパジャマを着てとても嬉しそうだ。山田ママがどこからか持ってきた黒猫柄プリントパジャマ。山田は涼し気なタオル地で配色は紫とキャメルのこだわり。
「書き込むのかぁ。それはちょっと怖いなぁ」
山田は机上のPCの画面をぱたんと閉じる。
「終わるの?」
「今夜は。……だって、シズカのやること考えなきゃ」
「ニャー……」
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