第12話 彼女とのこれから――

 川本瑛大かわもと/えいたは朝起きた時から、昨日のことばかりを考え込んでいた。

 いつまでもクヨクヨと考えてばかりではよくないと思う。


 今日は水谷桜みずたに/さくらと一緒に遊ぶ約束をしていた日。

 本当は楽しいという感情の方が勝るはずなのだが、今日だけは違った。


「まあ、朝食を食べてから考えるか……」


 瑛大は眠い瞼を擦りながら自室を歩き、扉のところまで向かう。


 桜との約束は午後からであり、まだ時間には余裕がある。

 だが、自室に閉じこもったままだと、またクヨクヨと悩みそうで気分転換を込めて一先ず部屋から出ようとした。


 扉を開け、廊下に出た時、視線を感じる。


「……おはよう」


 偶然、二階の廊下でノノとバッタリと遭遇してしまう。

 彼女の方から話しかけてきたものの、突然の事態に瑛大は声を出せず目を点にしていた。


 冷静になった時、瑛大からも小さく挨拶を返したのだ。

 昨日の件もあり、彼女の表情をよくよく見やると不安そうな顔つきのままで、悲し気なオーラを放っているようだった。


 一緒の屋根の下で暮らしているのに、重苦しい空気感のまま過ごしたくもない。

 けれども、ノノと正式に付き合うという判断も下せず、板挟みの感情の狭間に置かれている状況で、自分でも自分の存在が嫌になってくる。


 瑛大はため息をはいてしまう。


 互いに挨拶を終えてから互いに無言のまま。


 ノノの顔色もよくなく、やはり、昨日の事を気にしているのだろう。


 二人は無言のまま階段を下り、一階リビングへと向かう事にしたのだ。




 瑛大がリビングに入ると両親の姿はなかった。


 休みの日は家で過ごすのかと思っていたが、今日は久しぶりのプライベートでどこかに行ったのだろうか。


 首を傾げ、辺りを見渡していると――


「あなたの両親は仕事だって。今日は私の両親と会話する予定らしくて、職場に向かったらしいわ」

「そ、そうなのか? なんでそれを?」

「今日の朝ね、私のお父さんから連絡があったの。だから知ってたってわけ」


 互いの両親同士が会話するという事は、今後の結婚に関する内容である可能性が高い。


 瑛大自身は、ノノとの婚約をすんなりと受け入れているわけではなく、まだ迷っている最中だった。


 二人は朝食の準備を整えるなり、いつも通りの長テーブルで隣同士に座り、静かな朝を過ごす。


 でも、いつまでも自分がハッキリとした感情を出さないまま過ごすのも違うと思った。


 自分の方から話題を振ろうと思い、少し考え後、瑛大は食事する手を止めた。


「あ、あのさ、昨日の件なんだけどさ」


 瑛大の問いかけに彼女も食事している手を止め、チラッと視線を向けてきたのだ。


「俺さ、何となくだけど。両親から話を聞いて思い出したことがあって」


 無言の空気感を払うように、瑛大は淡々と話を進める。


「まだ自分の中ではまだハッキリとした事は言えないけど」

「瑛大はどうしたいの? 私とはこれからも一緒にいてくれるの?」


 ノノは箸をテーブルに置き、瑛大の事を真剣に見つめてくる。


 瑛大はノノの事をすべて知っているわけじゃない。

 でも、両親はこの頃、仕事が順調にいっている。

 そんな環境を崩したいとも思えず、瑛大は少し深呼吸をした後――


「……一応、ノノとはこれからも一緒に過ごしてもいいと思ってる」

「本当に?」

「ああ……両親がこれからよくなるなら、もう少しだけは様子を見るよ。正式に付き合うかどうかはまだ未定だけど」

「じゃあ、瑛大とこれまで通り一緒に過ごしてもいいってこと?」

「そうなるね」


 彼女は先ほどまでも曇った表情が解消され、パアァと明るくなっていた。


 ノノと同居している以上、今日会う約束をしている桜にも正直に伝えようと思う。

 まだ今後の事はわからないが、今の現状とは隠し事をせずに向き合って行こうと思うのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

俺の家に居候する事になった許嫁の美少女がエッチな同居生活を望んでいるらしい? 譲羽唯月 @UitukiSiranui

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画