第11話 今日の夜はあまり気分がのらない…
考えてみれば、自宅の生活水準が上がったと思う。
その異変は数か月前から現れていたと、今更になって
両親が経営している会社の軌道も良く、母親も事が上手く進んでいると言っていたくらいなのだ。
ノノの家が絡んできているのは本当であり、母親は今の現状に満足している様子だった。
ノノと比較的静かな夕食を食べた後、瑛大は一人で自室にいる。
母親が帰って来た時に言っていた事について勉強机前の椅子に座り、今まさに頭を抱え悩み込んでいる最中だった。
そんな時、なんの前触れもなく自宅玄関のチャイムが鳴る。
ようやく父親が仕事から帰って来たらしい。
瑛大は母親から呼び出され、ノノを覗いた家族三人で会話する事になったのである。
「なんか、久しぶりだな、瑛大」
リビングの長テーブルを囲うように、三人は席に座っている。
瑛大と向き合うように席に座っている父親から話を切り出されていた。
父親の左隣にいる母親は現状を見守る程度であり、余計な発言をする素振りは見せていなかった。
「瑛大には言っておかないといけないことがあってな」
「ど、どんなこと?」
瑛大は父親と関わるのは、数週間ぶりなのである。
それほどに久しぶりの会話であり、瑛大は恐る恐る父親へ反応を返し、反応を伺おうとしていた。
「まあ、そんなに緊張しなくてもいいさ。今日は、五十嵐さんの事について話しておこうと思ってな」
「……ノノって、俺が昔出会っていた子なんだよね?」
「そうだが。まあ、五十嵐さん自体がな、父さんとは昔からの知り合いでな」
「知り合い?」
「そうなんだ。瑛大が小学生の時にな、五十嵐さんが住んでいる場所に行く予定があって。その時に、瑛大とノノが関わってたんだ」
父親は昔の事を淡々と話す。
あの頃の記憶を辿るような表情を見せていたのだ。
父親の口ぶり的に、まったくの見知らぬ家族ではないという事が分かり、瑛大は心の中で安堵していた。
「五十嵐さんには今もお世話になっていてな。父さんが企業するきっかけを作ってくれたのも、五十嵐さんなんだ。それに、今の会社の業績回復に貢献してくれているのも、五十嵐さんでな」
「そんなに世話になってるの?」
「まあ、そういう事だな。それと、五十嵐さんからのお願いで、どうしてもノノを瑛大と結婚させたいようでね」
「でも、どうして俺なの? 俺は、ノノとは数日間だけしか関わってないんだよね?」
「え? 数日間? そうではないんだけどな」
「で、でも、ノノは数日しか関わってないって」
瑛大は自分が知り得る程度の事を話す。
「まあ、確かに、瑛大は数日間しか関わってないな。瑛大からしたら、そうかもしれんな」
「……え? ど、どういう事?」
父親からの反応を見て、きょとんとする。
「瑛大は忘れているかもしれないが、五十嵐さんの家に行った時にな。川のところでバーベキューをやることになってな。そこで瑛大が川に流されて意識を失ってしまってたんだ」
「⁉ お、俺がそんなことに? で、でも、そんな記憶なんて」
「忘れていたのなら、無理に思い出させたくないと思ってな。今まで何も言っていなかったんだ」
「でも、どうして俺が溺れたの?」
「瑛大がノノちゃんと川で遊んでいる時に、ノノちゃんの方が流されてな。瑛大が最初助けたんだ。でも、その後、瑛大が川から出ようとしたところで川に流されて。さっきも言った通り、瑛大は一週間ほど病院にいたんだ」
「だから、俺の記憶に乖離があったのか……」
「そういう事だな。こんな暗い話はこれくらいにして。瑛大、ノノちゃんと数日間家で過ごしたと思うが、結婚する気にはなれたか?」
「そんなの、急すぎて」
瑛大は桜のことが好きであり、突然出会ったノノに対する結論を、今すぐに口に出して両親に伝えられる事ではなかった。
将来に関係する大切なことを、数日間では決められないのだ。
「俺……そういう事はまだ……」
「そうか。でも、ノノちゃんはな。瑛大の事を気に入っているようで、どうして付き合いたいって。何年も前から思ってるらしいんだ」
「だとしても、そういうのは後でもいい?」
「まあ、いいが、できれば今月中には決めてほしいんだけどな」
「わ、わかった……今月っていっても来週の土曜日くらいってことだよね」
「そうだな。よろしく頼むぞ、瑛大。ノノちゃんとの正式な結婚の約束が、私たちの今後の仕事に大きく関わってくるからな」
母親は最初から最後まで何も話す事なく、父親と共にリビングから立ち去って行ったのである。
この頃、色々なことがあったが、その中でも今日が一番辛く感じていた。
「瑛大、今時間ある?」
一人きりになったリビングに、
瑛大はさっきの両親の話が体に負担がかかりすぎていて、彼女には何も返答できずにいた。
無言のままの瑛大の隣の席に彼女が座る。
ノノも瑛大の事を配慮してなのか。そこまで多くを語ることなく、無言のまま隣にいてくれていた。
その日。金曜日の夜は、いつもよりも静かな時間だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます