第7話 今日こそは思いを伝えたい…
んー……。
普段の朝はちゃんと寝た感じになるのだが、今日の朝はいつもと違うのである。
体が怠かったのだ。
瞼を閉じたままの瑛大は疲れを取り除くため、ベッドに仰向けになった状態で勢いよく背伸びをした。
体の怠さをある程度解消し、瑛大は頑張って起き上がろうとした時だった。右側に何かがある事に気づいたのである。
それは柔らかいものだった。
不安な感情に駆られ、瑛大は勢いよく瞼を見開く。
瑛大の右側には、水玉模様のパジャマを身につけた
「⁉」
声を出しそうになったのだが、咄嗟に彼女の体から両手を離し、右手で口元を塞ぐ。
そ、そうか……。
そう言えば、昨日一緒に休む事になって、こうなっているのか。
今触っていたところは、彼女の右腕の部分だったらしい。
少しでも触れるところがズレていたら、如何わしい行為をしている状態になっていたかもしれない。
軽く胸を撫で下ろしながら、瑛大はベッドから降りて、すぐさま一階リビングに向かう事にしたのだ。
瑛大は食事用テーブル前の椅子に座り、一人で朝食をとる。
学校に行く時は、一人で自宅を出たいからだ。
極力、ノノを起こさないように、音を立てずにトーストのパンを口にしていた。
今、彼女を起こして一緒に通学する事になったら、ノノといるところを誰かに目撃されてしまう可能性だってあり得る。
昨日の教室内でも、ノノの発言により、瑛大はクラスメイト同性から変な目で見られることが多くなっていたからだ。
瑛大が食事を終えた直後、リビングの扉が開く。
「なんで起こしてくれなかったの?」
パジャマ姿の彼女が勢いよく姿を現す。
「もう少し休ませようと思って」
「だからって。もうー、私は一緒に朝食を食べて、一緒に学校に行きたかったのにー」
納得できていない彼女は頬を膨らませていたのだ。
結果として、瑛大は彼女の準備を待つことなく自宅を後にしたのであった。
やっと終わったか……。
昼休みを告げるチャイムが授業中の教室内に鳴り響き、周りが次第に騒がしくなる。
壇上前に佇んでいた教師が必要な道具を整えて教室内から立ち去って行く。
瑛大が右隣に目線を向けた時には、すでに数名のクラスメイトが集まっており、瑛大の視点からはノノの姿を確認する事が出来なくなっていた。
「ノノさん、一緒に食事しない?」
「というかさ、昨日言っていた瑛大が好きって発言も何かの嘘なんだろ」
「ねえねえ、今日は食堂で食べない? 今日のメニューが良いらしいの」
席に座ったままのノノは、周りの人らから質問攻めにあっていた。
実質足止め状態の今、これはチャンスだと思い、手短に机の上を片付けて瑛大は席から立ち上がる。
瑛大は教室内を見渡すのだが、
廊下に出て辺りを確認したが、やはり彼女の姿はどこにもなかったのである。
今日はしょうがないか。
ノノが他の人と昼休みを過ごしてくれるなら、余裕を持って桜と一緒に食事をとれると想定していたが、その考えは打ち砕かれてしまった。
校舎一階の購買部でパンと飲み物を購入した後、瑛大は部活棟へと向かう。
昼休みなら誰もおらず静かに過ごせると思い、部室の扉を開けるのだが、すでに先着が居たのである。
「ん? なんだ、瑛大か。丁度いいところに来たね」
部室にいたのは、部長の
先輩は床に置かれている段ボールを開封していた。
瑛大は回れ後ろをしたくなったのだが、実里先輩から右腕を掴まれてしまい、仕方なく部室に止まる事となったのである。
「まあ、一先ずは、これを手伝ってもらおうかな」
実里先輩はストレッチするかのように軽く体を動かし、気合を入れていた。
「何をすればいいんですか?」
「ここの段ボールに色々な本が入ってるでしょ」
「ありますね」
「それの仕分けをしてほしいの。この用紙を見てね」
先輩から仕分けの仕方が記された用紙を手渡された。
「六〇〇冊近くあるから」
「そんなにですか?」
「そうよ。まだ、あっちの方にも段ボールがあって」
部室の端の方を見てみると、三段ほど段ボールが重なってある。
その光景を見て、ドッと疲れてしまったのだ。
「先輩は昼食はとったんですか?」
「まだだけど。一応グミは食べたけど」
「それだけですか?」
「そんなわけないでしょ。後で食べようと思ってるの。ほら、あっちに」
実里先輩の視線の先にある長テーブルには、コンビニで手に入るようなレジ袋が置かれており、食べ物が入っているようで膨らんでいた。
「まあ、これの仕分けが終わったら食べるつもりだけど」
先輩は段ボールから本を取り出しながら言っていた。
「この本は何に使うんですかね?」
段ボールにはラノベだけではなく文学的な本からビジネス本まであった。
「フリーマーケットの時に売ろうかなって思って、色々な場所から取り寄せておいたのよ。それと本の存在もアピールしていかないとね。この頃、本を読まない人もいるし」
「確かにそうですね……取り寄せたとは、どこからですかね?」
「まあ、そんな深い事は気にしなくてもいいから」
「え……?」
疑問に感じていたが、それ以上は問わない事にした。
先輩の体からは、圧的なモノを感じてしまったからだ。
本の仕分け作業は、途中まで終わった。
まだ、あと半分ほどもある。
昼休み時間中には終わらないと判断したのか、実里先輩は椅子に座り、先ほどのレジ袋から飲み物を取り出して飲んでいた。
まだ開けていない段ボールもあり、瑛大も諦めて椅子に座るのだった。
それから二人は昼食をとる事にしたのだ。
実里先輩はコンビニで購入してきたおにぎりを。
瑛大は学校の購買部で購入してきたパンを食べて、残り僅かな昼休み時間を過ごす。
考えてみれば、部活に所属してから先輩と二人きりで過ごした事はなかったはずだ。
珍しいシチュエーションであり、椅子に座っている瑛大は、食べる手を止めて近くにいる先輩の方をチラッと見やった。
「ん? どうかしたか?」
「なんていうか、先輩には相談しておきたいことがあって」
「相談? どんなこと?」
「昨日入部したノノの事なんですけど……」
「あの子のこと?」
「はい。俺、あの子から告白みたいなことをされて。それで困ってるというか」
「告白されたなら付き合ってみればいいんじゃないか?」
「そう簡単な話じゃなくてですね……」
「まあ、複雑な事情ってことか。そんなに困っていてもな。あの子を辞めさせることもできないんだよな」
「どうしてですか?」
「まあ、昨日も言ったと思うけど、部活の存続に関係するからね。でも、まあ、私の方からも、あの子と会話してみるよ。返答はそれでもいい?」
「は、はい……」
相談したからといって、何かが変わるわけではないと思うが、ストレートな気持ちを口にしたことで少しだけ気分が楽なっていた。
「ん? そろそろ、午後の授業が始まるな」
実里先輩の、その発言により、瑛大も部室を後にすることになったのだ。
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