第6話 彼女への想いは――
夜の時間帯。
瑛大は勉強机前の椅子に座ったまま悩み込んでいたのだ。
ノノと同居することになった以上、それらの悩みが今後もまとわりついてくるだろう。
それよりも、昔のことなんて全然思い出せてはいなかった。
本当に、ノノとはどんな関係だったのだろうか。
どういうシチュエーションで出会ったのかもわからないのである。
「はあ……なんか、この頃疲れるな……そういや、つい最近から購入し始めたばかりのラノベも全然読めてない気が」
勉強机の右隣には比較的大きめの本棚がある。
四〇〇冊の本を収納できるほどのサイズ。
普段から読んでいるシリーズ系のラノベは、ここの本棚に置いている。
それとは別に、たまにしか読まないラノベは段ボールにしまい、自宅二階の押し入れ部屋があり、そこに収納しているのだ。
「このラノベでも読んでみるか」
一応、部活中にもラノベを読んでいるのだが、本の考察や感想を書きだすために決まった種類のラノベしか読んでいないのだ。
部活では無かったら、どんなラノベでも手に取り、読む事もあった。
普段の日常生活が忙しいと、色々なジャンルのラノベに幅広く目を通す事ができないのである。
そんな時、何の前触れもなく部屋の扉が開かれた。
瑛大の部屋に入ってきたのは、お風呂上りの
彼女はバスタオルで体を隠しているものの、普段着と比べても露出度が高いのだ。
突然の事態に動揺し、さらには目のやり場にも困り、瑛大は驚きすぎて椅子から床へと尻餅をつく形で落ちてしまっていた。
「瑛大、驚きすぎじゃない?」
「いや、ノックくらいしろって」
「でも、一緒の家に住んでるんだし」
「だとしても、プライベートは大切だからさ。まあ、そういう色々な時間ってのもあるだろ。だから、せめてノックしてくれ」
瑛大は床から立ち上がる。
少々腰を強くぶつけてしまったようで、腰の辺りを左手で擦っていた。
「ねえ、今日は一緒に休もうよ」
「それは無し。さっきも言っただろ」
瑛大は部屋の扉のところまで向かい、彼女を追いだそうとする。
「えー、でも、私、瑛大と一夜を過ごしたいんだけど」
「んッ……そ、そういう関係じゃないだろ」
「そういう関係に今からなるの! 普段の積み重ねが大事でしょ!」
ノノはどうしても一緒に休みたいようで、瑛大の部屋前の廊下で頬を膨らませながら駄々をこねていた。
「いいんじゃん。誰かに見られているわけじゃないし」
「そうかもしれないけどな」
刹那、桜の姿が再び脳裏をよぎる。
やっぱり、ダメだ。
「というか、俺も風呂に入ってくるよ」
「じゃあ、一緒に入ればよかったのにー」
瑛大が部屋の扉を閉めた時、バスタオル姿の彼女が背後から抱きついてくる。
「今日は一緒に休みたいな。一緒のベッドで二人だけの会話もしてみたいし♡」
ノノからの強引にも近い好意を背に受けながらも、瑛大は必死に堪えていた。
「んー……まあ、お風呂に入ってきた方がいいかもね」
「へ?」
「ちょっと汗臭いし。でも、私は気にしないけどね」
背後にいる彼女から突然、突き放された感じだ。
いきなりそういう距離感のある態度を取られても、瑛大は納得がいかずモヤモヤしてしまう。
けれども、彼女の元から一旦離脱が出来るのだ。
ノノの方はパジャマに着替えてくるらしく、二人は二階廊下の階段付近で一度別れる事にしたのである。
自宅一階に降りた瑛大は、脱衣所にあるお風呂に入る。
長風呂するわけではなく、簡単に汗を流す程度にシャワーを浴び。汗臭いと思われるところだけを重点的に泡立てたタオルで洗い落とす。
瑛大は数分ほど湯船に浸かり、計一〇分ほどでお風呂から上がったのだ。
瑛大はバスタオルで体を拭いて青色のパジャマに着替えた後、二階へは向かわずにリビングへと向かう。
電気がついていないリビング内。瑛大は闇のオーラを身に纏うかのようにこっそりと入り込んでいく。
その後で音を立てずに扉を閉めたのだった。
「……」
瑛大は暗い部屋でスマホを取り出し、リビングの壁に寄りかかるように床に座り、顔に電気を受けながら画面をタップする。
メールフォルダを開いた瑛大は、両親の他にメールが届いていないかを確認していた。
「無しか……でも、水谷さんに今日中には返事を返さないと」
桜に対する想いを本気で伝えたいと思う。
だからこそ勇気を持ち、メールフォルダを操作し、そこの文章欄のところに自身の想いを書き出していく。
「で、でも、急に返事をしたら変かな? というか、今は夜の十時半か……時間的にメールをしてもギリギリ大丈夫だよな。でも、やっぱり、気持ちを伝えるなら電話の方がいいかな……い、いや、ダメだな」
今電話をし、もしものことがあってノノの声が響いてしまったら、さらなる終わりを迎える事となるだろう。
「いつまでも迷ってばかりじゃダメだよなッ」
今、瑛大は迷いを吹き払ったのだ。
自分の本気の想いを伝えるためにも、真剣に彼女と向き合おうとしていた。
文章を何度も確認し、瑛大が送信ボタンを押そうとした時だった――
パッとした光が、この空間を照らすのだ。
「ねえ、瑛大。こんなところにいたの?」
水玉模様のパジャマを身に纏うノノは、床に座っている瑛大を見下ろすように話しかけてくる。
「え? ど、どうして、ここに⁉」
「それはこっちのセリフだから。というか、そこで何してたの?」
「こ、これはなんでもないというか」
「じゃあ、見せて」
その場に佇むノノからそう言われ、瑛大は慌てて文章欄を削除してしまう。
ゆえに、さっきまで書いていた内容がリセットされたことになるのだ。
「……問題はなさそうね。瑛大、早く部屋に戻るよ」
瑛大のスマホを手にするノノから腕を引っ張られ、その場に立ち上がる。
日付が変わる前に自分の想いすらも伝えることができず、悲し気な気分になりながらも瑛大は彼女と共に階段を上って部屋に向かうのだった。
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