第5話 瑛大と一緒にやってみたい事があるんだけど
「ねえ、瑛大、何かしない? むしろ、何かして遊ぼうよ!」
ソファに座っている瑛大の右腕に寄りかかるように、
そんな彼女から提案を受けるが、消極的な反応しか返せていなかった。
ノノはまだ瑛大と遊び足りないようで、夕食を終えた今でも瑛大と付きっ切りでいるのだ。
家にいる時もずっと一緒にいられるのも困りものである。
瑛大は心の中で、どうすべきか、そればかりを考え込んでいた。
ノノとは、許嫁としてこれから同居していく事になるのだ。
先が思いやられ、瑛大は軽くため息をはく事となった。
「瑛大。そんなに落ち込んでどうしたの?」
「それは色々あるからな」
今日の部活中。
同じ部員の桜と部室ではない空き教室にいる時に、
それに部活中や部活帰りもノノがいた事で、未だに桜に対しての返答ができていなかったのだ。
「そうだ、瑛大、一緒にお菓子を食べよ」
「お菓子? さっき、夕食を食べたばかりな気が」
「あれとこれは全然違うの。お菓子は別腹なんだから!」
ノノはソファから立ち上がり、ようやく離れてくれたのである。
気づけば彼女はリビング内の棚を漁っていた。
「これこれ」
ノノは何かを見つけたらしい。
というか、いつの間に俺の家の事を熟知してるんだよ。
「これよ!」
ノノが瑛大のところまで戻ってくる。
彼女が元気よく見せてきたお菓子というのは、赤と黒色のパッケージデザインをしたポッキーチョコだった。
「それを食べるのか?」
「そうなんだけどね。でも、普通に食べるわけじゃないんだよねー」
ノノは意味深な表情を、瑛大に向けていたのである。
彼女はポッキーの箱を開封していた。
そこから銀色の袋を取り出し、さらにその中から黒色に光る棒状のモノを取り出していたのだ。
「まさか……」
「そうだよ。これを一緒に食べるんだよ♡」
「ま、マジか」
「嫌なの?」
「そういうのはさ」
「でも、私たちは許嫁なんだよ。だから、将来の事を見据えてこういうのもやっていかないとね!」
ノノは勝手に持論を展開していた。
「はい、口を開けて」
彼女はポッキーを手に隣のソファに座ると、その先端部分を瑛大の口元へ近づけてきたのだ。
「本気でやるのか?」
「そうだよ。だから、早く口を開けて」
ノノの瞳は本気であり、そんな彼女から食べる事を強要されていた。
こればかりはしょうがないと思い、瑛大はしぶしぶと口を開けた。
すると、彼女はすんなりとポッキーの先端を瑛大の口の中へ差し込んできたのである。
「私、こういうのやってみたかったんだよね」
彼女は反対側のポッキーを口にする。
互いに、同じモノに口をつけている状態だった。
ノノは瞼を閉じて何も話す事なく、ポッキーの端から食べ始めるのだ。
このままだと、彼女の策略に嵌められたまま必然的にキスをする事になってしまうだろう。
それが彼女の本来の目的なのだろうと、瑛大はポッキーを口にしたまま思った。
近くに
「ん? どうしたのかな?」
「いや、俺はやらないよ」
桜の姿がさっきから脳内で再生されてばかりで、どうしてもポッキーゲームと素直に向き合う事などできなかった。
「えー、つまんないのー」
ノノから不満な態度を見せつけられていた。
それでも、瑛大の考えが変わる事はなかったのである。
「じゃあさ、一緒にお風呂は」
「それも無理だ」
「なんで? 一緒に過ごすんだし、もっと瑛大の事を知りたいんだけど」
ノノから、さらに距離を詰められ、右肩には彼女の胸が接触していたのだ。
彼女はそれなりに胸が大きいようで、当てられ続けられると反応に困る。
で、でも、こんなところで弱みを見せたらよくないって……。
瑛大は何度も自分の心に言い聞かせていた。
一度でも彼女からの誘惑に負けてしまったら完全に自分の敗北になるだろう。
瑛大は桜に対する想いに嘘はつけないと思い、必死で断り続けていたのだ。
そんな時だった。
瑛大のスマホが鳴ったのは――
誰かと思い、瑛大はスマホを手に取る。
一瞬、桜からの連絡かと期待を込めて、メールフォルダを開くと全然違う。
相手は母親だった。
メールの内容は、今日も帰れないというもの。
またかよ……。
瑛大は一度電話してみるが、母親が出る事はなかった。
父親にかけても電源を切っているようで連絡がつかなかったのだ。
いつも通り、一方的な連絡しかないらしい。
これじゃあ、全然、ノノに関する話ができないじゃんか。
「それで誰だったの?」
隣にいる彼女がスマホの中身を覗き込んでくる。
「な、なんでもないよ」
「ほんと?」
「母親からで今日も帰れないってさ」
「そうなんだ、じゃあ、一緒に休めるね! 今日は一緒のベッドで休む?」
「い、いいよ、俺は」
瑛大は拒否気味にソファから立ち上がる。
「そんなに照れなくてもいいのに」
ノノは気さくな感じで言ってくる。
「べ、別に照れてないし……」
「じゃあ、私はお風呂に入ってくるね。瑛大はその間好きなことをしててもいいから」
そう言って、彼女はリビングから立ち去って行ったのだ。
瑛大は一人になり、ノノが立ち去った無機質な音だけがその場には留まっているようだった。
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