第2話 許嫁は積極的で大胆⁉

 川本瑛大かわもと/えいたはノノと共に自宅リビングにいる。

 二人きりで一緒に食事をすることになったのだが、彼女は裸にエプロンという姿のまま。


 女の子と一つ屋根の下で、こういう風なシチュエーションで過ごした事のない瑛大からしたら刺激的すぎるのだ。


「ねえ、口を開けてくれない?」


 右隣の椅子に座っているノノが瑛大の方を見るなり、コーンスープをスプーンで掬い、それを口元まで運んでくれているのだ。


 彼女からまじまじと見られながらの夕食。

 緊張しながらも、瑛大はその液体を口にする。

 そのまま喉を通す。


「今度はハンバーグも食べてほしいな♡」


 積極的なノノから圧倒され、気づいた時には、口元にハンバーグの一部が向けられていたのだ。


「結構、色々な料理が出来るんだね」

「そうだよ。私、いっぱい勉強したからね。瑛大のためだったら、なんでも作ってあげるから」


 二人がいる食事用の長テーブルには、ハンバーグやコーンスープの他に、皿に盛りつけられたご飯に野菜のサラダ、フライドポテトなども置かれてあった。

 洋風な夕食風景である。


「はい、いっぱい食べてね♡」


 強引なノノによってハンバーグを食べさせられる。

 お腹は空いていた事もあって、次第にお腹は満たされていくが途轍もなく複雑な心境だった。


「どう? 美味しい?」

「ああ、普通に美味しいけど」

「けど?」

「別に深い意味はないから」

「そう? なら良かったかな」


 彼女は嬉しそうに笑みを浮かべていた。


「えっとさ。私のこと、本当に覚えていない感じ?」


 裸エプロン姿のノノから詰め寄られ、体同士がくっついてしまいそうな状況。

 変な感情の高ぶりに、瑛大自身も驚きながらも何とか自制心を維持していた。


「お、覚えていないけど……」


 瑛大は動揺しながら返答する。


「そ、そうなんだ。それはショックかな……だったら、ちょっと待ってて」


 そう言って、閃いた表情を見せるノノはリビングの扉へと向かう。

 その時、彼女の後ろ姿が見えて、瑛大はサッと視線を逸らす。

 彼女の後ろの肌が丸見えだったからだ。


 目のやり場に困るって……。


 彼女の事は好きとか嫌いではないが、さすがに服装はちゃんと着てほしかった。




 一分ほどでノノがリビングに戻ってくる。

 彼女が手にしていたのは大きな本だった。


 ノノは席に座り直し、瑛大に対して正面を向けてきたのだ。

 彼女がアルバムを開くと、その本の中身には沢山の写真があり、それがアルバムだと瑛大は知った。


「瑛大は、これ知ってる?」


 目の前の椅子に座っているノノが膝元でアルバムを見開いており、とある一枚の写真を見せてきたのだ。


 アルバムを持っているノノは前かがみになっており、必然的に瑛大の視界には彼女の胸元が目に付く。


 そ、そっちじゃなくて……写真の方だよな。


 自分で感情をコントロールしながら、その写真に目を通す。


「……どこで撮った写真だろ……というか、ここにいる人って……ん、お、俺か?」


 よくよく見てみると、それは小学生の頃の瑛大本人であった。

 しかも、隣には一人の女の子が佇んでいる。


 昔、どこかで記念に撮られた写真なのだろうか。

 昔過ぎて、全然思い出せていなかった。


「まだ思い出せない感じかな?」


 ノノは再度、瑛大の顔を見て首を傾げていた。


「その一枚だけだとさすがに」

「じゃあ、ちょっと待って」


 彼女はアルバムのページをめくり始めた。


「これは覚えてる?」


 別の写真を見せられる。

 今度は、森の入り口を背景に撮られた写真だ。


 周りの雰囲気を見ても、都会とかではない様子。

 どこかの田舎ではあると思われるが、なぜ、彼女と写真を撮影する事になったのかさえも思い出せず、瑛大は軽く声を出し、悩んでばかりだった。


「そう言えば、これって時期的に、いつ頃の?」

「夏休みの時だよ。私が小学四年生の頃だったから。瑛大も私と同い年でしょ」

「君とは同い年なのか?」

「そうだよ。私のこと何歳だと思っていたの?」

「……まあ、確かに、見た目的にも同い年か」


 瑛大は少し悩んだ後、答えた。




 写真を見たからなのか、瑛大の脳内にフラッシュバックするシーンがあった。

 田舎の風景がフワッとした感覚で脳内に反映されていたのだ。


 瑛大自身の脳内で再生された、その子もロングヘアだった。

 今、目の前にいるノノも写真に写るノノもロングヘアなのだ。


 瑛大が写真と現物を見比べていると、全体的に成長しているのが伺えるほどだった。

 大人っぽくはなっているが、少し生意気っぽい雰囲気があり、それに関しては今も変わっていないような気がした。


「その表情、もしかして何か思い出せた感じ?」

「ま、まあ、少しだけは。でも、俺と君が婚約する事となんの繋がりがあるんだよ」

「繋がり? んー、そうだね、写真だけだとわからないよね」


 それに関しては彼女自身も納得するように頷いていた。


 ノノは一度アルバムを閉じると――


「そもそも、君も俺と結婚してもいいのか? 殆ど関わった経験のない人とさ」

「殆どって、そうかもしれないけど。私からしたら、少しの間でも長く感じられたんだよね。私はまだ瑛大のすべてを知ってるわけじゃないけど。でもね、これから一緒に過ごしていくんだから色々と瑛大の事を教えてよ!」


 ノノは目を輝かせて言っていた。


「それと、私のことはノノね。君じゃなくて」

「ごめん……でも、呼び捨ては」


 付き合い慣れた同士であればいいのだが、瑛大からしたらほぼ初対面の相手であり、下の名前で呼び合う事には躊躇いがあるのだ。


「ノノって言ってくれればいいから! 簡単でしょ」

「……ノノ」

「それでいいよ」


 彼女からニコッとされる。


「それと、私、明日から瑛大と同じ学校に通うことになってるから」

「……え……は⁉ どういうこと⁉」

「だって、一緒に過ごすんだから、同じ学校に通うのは普通でしょ?」


 ノノは明日の事を思い、新しい学校での生活を喜んでいるようだ。


 な、なんでそんなことに――


 学校にはクラスメイトの水谷桜みずたに/さくらがいて、その子の前でノノとの関わりを見られたら色々とおしまいなのだ。


 ライトノベルでのシチュエーションならともかく、当事者として現実では厳しいモノがある。


 瑛大は絶望的な環境に置かれていると思うと、なおさら今後の生活に不安しかなかった。

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