第3話
それから、私が彼を気に入ったのか、彼が私を気に入ったのか、猫が私を気に入ったのかも分からないまま私達は何回も会うようになった。それはいつも日曜日。彼はビラを配っている。何度もこれを繰り返した。私は二十九歳で、彼は二二歳。私は中平で、彼は堀井。彼の名前はまだ知らない、彼も私の名前は知らない。名字だけが何度も何度も脳内を往復している。そんな私たちの曖昧な関係は一年も続いた。お互いに好きな本を交換した。お互いの好きな古着屋に行った。大学生の波に釣られて夜は居酒屋に行った。高校時代の恋愛話、上司のポンコツさ、これからの日本はだなんて壮大な話もした。アホらしい話を沢山した。そんな日曜日が、大好きだった。使いまわされていた無難な服は新調され、彼が本を借りに来た時はうんと部屋を掃除した。私はこの一年間恋をしていたのだと思う。でもそれは決して純情な恋愛では無かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます