第35話 アズラの羽

潜入任務をこなした後から俺への視線に変化があった。

嫌な性的な視線が減り、尊敬のような畏怖の様なものへ変わった。

一度だけヴァルが遜るような態度を見せた事もあって、すごいやつ扱いを受けている。


本当にやりづらい。ネックレスを作る際に団員との接触を強くした事もあって鍛錬時に視線が集まってくる。


団内での俺の地位の様なものが上がったとセナは感じ取ったのだろう。機嫌がよくなり俺の物に所かまわず体を擦り付けるようになる。

食事の合図も、マナをより小さく動かすようになった。気づかなければ突進してくる。

凄く省エネしてる。絶対舐めてるよね?



「ラエル、ちょっち来るんだぜ。お姉さんの所へ、ね?」


姉の魔法陣爆弾や団員のネックレスの出所はオリナス製の魔術具として認識されていた。


ノワール傭兵団はかなり風紀を気にしており、異性への接触は良くないとしてる。

その為、一度も女性の部屋へ訪れた事は無かった。…俺の部屋へ勝手に侵入されて枕を取られた事件があったが。犯人は捕まっていない。何故か服が綺麗になっている時があるのは気のせいだろうか?


オリナスの部屋はとてもいい匂いがした。突発性のようなものが無ければ間違いなく品がいい、ハニエには負けるかもしれないが。


年齢は18歳らしく、大人の色気を感じる。男として成長した為、マナの威圧感を抑え込めれば女性に魅力を感じてしまうようになる。こんなにも綺麗なら…


「で、見てないけど、ヴァルに感謝されたよ。団長にも首輪の件ありがとうってね。二人ともラエルに頼まれたんだろって聞いてきたから。『へえ』って返事した。…教えてくれる?」


「…………。」


「………はぁ。…はぐらかすのは無しね。結晶にサークルで何か刻んでる、でいいんだよね。…ラエル、誓う。何があっても漏らさない。それだけはアス・オリナスが誓う。」


「迷惑をかけるのは…な、……実は―――」



***


「凄いね!……えっ、ダメだ。ほんとに?いや、やばい!おい!どうしてくれんだ!もうラエルがいないと生きていけない体になった!ねえ!」


…多分、全力のマナを漲らせているため、俺の部屋にいるセナが反応している気配がする。なんだこの女、好きな事を好きなだけ言って責任とれとか言い出した。あと喋れない。至近距離のマナの威圧感が震えあがらせてくる。何で拠点でこんな思いをしているのか。


「杖出して、そんで二日頂戴。最強のやつをあげるから。」


「…オリナスの魔術具は最高だからお願いしたいけど、抑えて。…抑えて下さい。」


「私ね、アス家っていうとこの当主候補だったんだけど、海獣を呼び寄せたとか文句つけられたの。それでリエルラの花とアズラの鏡っていうアーティファクトを取られてね。…でも今はここに来れて良かった。」


「急に自分語りするなよ…怖いから。」






杖を預けている間はいつもの鍛錬が出来ない為、回避する訓練をしていた。


「マジでやんのか?まぁ痛くねえかもだが、じゃあやんぞ!」


俺は目をつぶりヴァルの不規則な攻撃を避ける。マナの気配を感じ取ればタイミングを掴めるだろうと思い付き合ってもらう。


「へぇ、マジで避けんのな。……へへ。」


走って来て抱き着かれた。攻撃は?


「おい。避けろよ。……あれだな、抜け出す訓練もいるだろ。」


「……あぁ、そうだな。代わろうかヴァル副団長。」


「…いえ、団長は戻られないと聞いて、用意を終わらせてませんでした。…やってきます。」




***


「ほい、どうよ!多分これ以上のは出来ないかも。それ、ほぼアーティファクトだから。」


羽ペンみたいな形状をしている。いや…羽だ。そして先端が手首に巻き付くようになっている。白くて綺麗だ。


羽の中央に結晶を置くと勝手に羽が広がり覆うようになる。マナを流す。俺の魔法陣をサークルする。


(!…音がする?違う、手の鱗と共鳴してる?見なくてもマナの通りが感覚で分かる。凄い、スムーズ過ぎて気持ち悪ッ…もう終わった。体感五秒かかってない…今までと桁が違いすぎる。これはもう魔法だ。)


驚き下を向いた顔を覗き込まれる、そのまま口づけをされた。


「…はぁ?…あぁ、これありがとう。」


顔色一つ変えずに笑うのを見て事故だった?と流した。


マナの揺らぎを感じる、さっきから部屋の壁を尻尾で叩く音がしている。

飯の支度の為にドアを開けて振り返る、オリナスは背を向けたままだったが耳が赤くなっていたのを見ない振りした。


マナを漲らせたセナにそのまま突進された。

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