第34話 鬼畜

団長は魔法が使えないと言った。

ビビりながらも俺と団長の魔法陣が入った結晶にマナを流す。

…特に変わった事は起きない。意識できない何かが起こっているのか?


オリナスとヴァルの魔法陣もあるのだが、一度姉の件で痛い目を見ている。

普通に怖いから止めておくことにした。

…一応もう少し二人の魔法陣をストックしようと考えた。



「ラエル、行くぞ。あと、中に入るのにこれがいるらしいから。」


ヴァルに渡されたのは黒い梟の形をしたパピヨンマスクの様な物だ。

今回は潜入任務みたいな物で、捕まっている人を救出。出来れば敵の殲滅になる。


俺は手を下した事はないが、ヴァルが球で下した所は何度も目にした。

特に何も思う事は無かった。大切な者でなければあまり心が揺れないのかもしれない。


「黒髪もこれで隠せると思う。もったいないと思ってた。手入れしても見せれないし。…どうしよう、私のラエルがばれる?」


アナベルが何かほざいている。相変わらず女装のままだがカツラが要らないのはいい。

非合法の集まりというありきたりな所に赴く。


屋内の任務と聞き持ち物を選定した。

セナは留守番になると伝えると俺のベットの上で転がりまくっていた。誰が毛の掃除をする?




カマエラの隣ビター村で集会はあった。

ここは大きなレ―ヴァ寺院があった場所で、カレア家に追従するネア家も掃討に乗り出していた。


マスクをつけて酒場の裏手から入る。すでに手引きはされていたので、不審がられないように腰をくねらせながら歩いた。


「ラエル、やるな。変態っぽい。ウチには無理だ。」


アナベルや他メンバーも首を縦に振る。じゃあ帰れと思い聞き流した。


なんだろう、そういう雰囲気の場所だからか魔術光はピンク色をしている。

この演出がいるのか?もしかしてドワーフ主催なのか?と考えを巡らす。


―――心配―

――――アにも―――をな


年齢が高めの女性達が顔を隠し、話し回っている。

嗅いだことのない甘ったるい匂いと、焦点の合わない女達。

想像出来ない事が起こるかもしれない、そう考えるとマナの威圧感に体が震えだす。


ヴァルに不審がられている。俺は自分の感情を騙す。ここで動けなくなったら終わりだと、左手首をぎゅっと握りしめたまま歩く。


皆の雰囲気が変わるのを肌で感じた。俺の異変に気付いたんだと思う。

ヴァルとアナベルはより近づいて来ていつでも庇える位置に。

他メンバーも早く任務を終わらせる為の動きになる。


「楽しみましょう。皆も、ね?」


まだ声変わりをしていない俺はより女性の声に近づけながら語り掛ける。

雰囲気でばれてしまわない様にと。


奥に行くにつれて道が狭くなっていく。


――――いい!

――――ほら―――て!

――――も舐―――


服のない男女がそこに居た。

男達は体中を弄られながら、舌を使っている。

普通に不細工の男達だった。


ヴァルがマスク越しでも分かるくらい顔を赤くしている。耳も真っ赤だ。

そしてこの男達の救出が任務だった。


一気にやる気が無くなり、恐怖が薄れた。アシエの結晶から手を放して。この光景をじっくりと観察した。

皆はもじもじとしていたが、俺は全然何も感じない。心は無になった。

くんずほぐれつしている者達はみんな見た目もスタイルも悪く、汚らしい。


とりあえず行為が終わるまで席について眺めた。



…終わらない、後から湧いてくる。男は大変だなと他人事になっている。

いや微笑しながら見ている。


ヴァル達は俺の態度に完全に引いていた。だが男で一番最年少の人間が堂々としているのに対抗心を燃やしたのか、席に体を預けて余裕の態度を取った。偽っているのが分かる。


仕切りの人は俺達グループに引いている。


冷静に作戦を考えていたが、皆は「おお、すっげ」と口々に声を出す。任務は?

屋内での任務なのは分かっていたので杖と姉の魔法陣が刻まれているマナタイトを持ってきていた。実験もしたかった。


ずいぶんハッスルした女性を介抱する形で鑑定する。よだれの渇いた匂いが女性から漂って来て気持ちが一層落ち込む。


女性にマナタイトを渡して男達の所へ向かう。次は私達の番よと言って。


ハッスルした女性陣はマナタイトの女の側に居る。仕切りの人に介抱を代わってもらうように誘導した。


女性にはマナを流してもらう。渡したマナタイトはリラックス効果の魔術具ですよと噓をついた。


――――パキッ――――


閃光が走った。


――――キャア―――

―――イヤ―――ア―――

―――何―――イタ―――


大惨事になった隙に男達を抱えて走る。

入り口側から人が来るが状況を呑み込めていないようだ。

そのまま、ヴァル達が吹き飛ばして酒場の裏手に戻ってきた。

マスターをしていた女性は相当困惑していた。

そのまま通りすぎて持ってきていた馬車の様な荷車に男を詰め込んだ。




***


「ヴァル、ちょっといいか?」


「ヒッ、あっ、ラエ…ル、どうしたの?」


「どうした?……なんか可愛いな、その雰囲気のヴァルは。オリナスがはよ来いって言ってたから。」


「………ふーん、こういうの好きなん。あれだな、鬼畜だな。」


「はぁ、えっと、行ってらっしゃい。」

(まじか?褒め殺しはついに効かなくなったか。どうしよう?その内殴ってしまいそう。)


何故か俺は鬼畜なのかと団長に聞かれることになった。


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