第32話 アシエの結晶

傭兵団の人数が増えて25名になった。


団長とヴァルはどうやら姉妹のようだ。

ノワール傭兵団は元々ルアワール家の者達が集まって出来たらしく。団長は現当主の三女に当たるとされている。

後継者候補の中で能力が一番高いとして当主に期待されていたが自ら辞した。だけど、家臣達はそのまま集い今の形になったようだ。


なんとなくだが、教育を受けた所作を節々で感じていた為、俺も引っかかってはいた。


オリナスに至っては別の家の者らしいが当主筆頭だったそうだ。

第一印象の品の良さに驚いたのを何とか思い出す。やはり俺の目に狂いはなかった。


任務も家から回されている事が多いと、新しく加入したマキラ14歳は教えてくれた。

…こんなにしゃべって大丈夫か?


「この団は皆、若いじゃないですか?だから気を付けて下さい。…もうムラムラですから、危なくなったら避難しに来てください。」


「おい、仕事残ってんぞ!マキラ!ウチがキレる前に行け!」


何があっても絶対に行かないと誓った。





***


団員それぞれとトレーニングをする様になった。オリナスとはよくしていたが圧がかかったらしい。あと、ストレッチと言う名のふれあいタイムが出来た。発案者はヴァル。そう不躾な触り方をされるわけではないので納得したのと、俺にも得があった。それは…


(やっぱりだ、人によってマナの通り道と魔法陣が違う。いや、陣が断線している人が居る。)


鑑定を使い、皆のマナの通り道を観ていた。その中で気づいたのは繋がっている魔法陣とそうじゃないのがある事。


マナの集約している所に必ず魔法陣はあるが、途中で断線している人がいる。むしろほとんどがそうだった。


ヴァル、オリナスはしっかりとした魔法陣だったが他は違った。団長は確認出来ていないが…


これは恐らく魔法もしくは加護持ちなんじゃないかと考え、思い出す。

…左手の結晶にアシエの魔法陣がある事、そこに俺の魔法陣も追加したのを。


俺はアシエの結晶にマナを流し込んだ。


――――いつもお側に居ります――――


僕の聞きたかったあの声が頭に響いた気がした。




視界が広がる。目の前で地面を蹴ったセナが遅くなる。土埃がゆっくりと舞っている。俺を盗み見る団員の間抜け顔を残さず確認出来る。頭がクリアになる。

――万能感が俺を包み込む。


(何が起きてる?いや、間違いなく体感速度が上昇してる。あいつ歯に飯のカスつけてる。…視野が広がってる。辺りの情報が勝手に目に入る。…今なら誰にも負ける気がしない。レ―ヴァ教の棍棒女にも。)




「――ハハッ!」

「―――過ぎなんだよ。」


そして元の世界に戻ってきた。

頭痛がする。倦怠感と吐き気が襲ってきた。


「―――!おい!ラエル!血が出てるぞ!」

ヴァルの心配している顔が近づいてきた。

最初と違いすぎない?もっとサバサバしてただろと思いながら目の前が暗くなった。



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――なあ、――は家を助けてくれないのか?


……………


――返事しろ!無視か!いつまでガキのままなんだ!


爺さんは遺言書を残した、相続人は俺だった。

クソ野郎どもは切っても電話をかけてくる。

こんなやつらにも少なくない額が与えられているだろうに満足しない。


――いいか――!――


俺は爺さんの家から海を眺める。

喚き散らすノイズが美しさを邪魔する。


―――でお前を誰が育―――


自分が見えないのだろうか?

…あいつは爺さんの子なのだろうか?



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「ラエル!大丈夫か?…大丈夫そうだな。」


ヴァルが看病してくれていたようだ。

部屋の外にはいくつもの気配と、大きくマナが乱れている気配も感じられた。

久しぶりのマナ枯渇だと思う。もしかしたら脳への負荷も影響しているかもしれない。


「ヴァル、ありがとう。あれだ、男の生理のような物だから。休めば大丈夫だ。」


「………ならいい、何かあったらウチを呼べ、いいな。」


そう言ってヴァルは出て行った。

一人になって俺は左手を…アシエの結晶を眺めた。


(本当に過保護だな、大丈夫なのに。)


鼻の奥に痛みを感じた。失われていた熱が戻ってきたような気がした。


左手首を握りしめる、呼吸が少しだけ楽になった。








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