第31話 童…?
「…戻んぞ。おら、握れよ。」
予定を変更しすぐにカマイラへ戻る事になった。
急げば今日中に戻れるだろうとヴァルは判断して俺に荒っぽく手綱を渡してくる。
ハニエ達とは中途半端な別れになってしまった。
まさか日が昇る前にヴァルが迎えに来ると思わなかったからだ。
セナはあくびをしながらも俺の足元を回り続ける。手綱を受け取れないんだが。
ヴァルに付き合わされる傭兵団の皆には疲れが見えた。
だが文句を言えない雰囲気を醸し出しているのでヴィに跨り帰る。
***
魔術光を手に夜更けになって帰還した俺たちは魔獣を寝かせつけて拠点に戻った。
ヴァルが反省会があると部屋へ引っ張るのだが、セナがなぜか入って来て俺の前から離れない。にらみ合いの後ヴァルは部屋に戻った。
セナは俺の部屋の中で眠りだし、隣ですぐさま眠気に襲われた。
翌朝は足への甘噛みで起こされた。…血は出たが。
早速飯を与えた後、気持ち悪かったので仕切りがある外の水浴び場で体を洗う。セナも入ってきたので一緒に石鹸で洗っていくが、頭だけは何があろうと洗わせないよう抵抗してきた。
「初任務よくやった!皆からは非常に良かったと報告があった。処女を散らしたな。」
「団長、男なんで童貞卒業ですよ。」
「……ま…ぁ、あぁ…そうだな、おめでとう。」
さっぱりした後団長室に呼ばれる。
何か反応に困る空気になったので、断りを入れて日課の訓練を開始した。
今日は雑用をしないでいいとメンバーの誰かが後ろから叫んできた。初めての事に誰に向かって言っているのか分からなかったが、目が合うとどこかへ行ってしまった。
食事の時間になって皆集まっていた。いつもは好き好きに用意された飯を食べるのだが、俺を待っていた。
「ラエルの…童…貞、卒業、おめ、でとう…おめでとう!」
団長がコップを掲げた。最初は皆もそわそわしていたのだが、団長の音頭で場が凍った。
こんな大勢が一気に黙ったのは初めてだった。緊急時でもないのに時間がこんなにもゆっくりに感じられたのは…初めてだった。
ヴァルとオリナスが壁に追いやられる。出発時に俺との冗談を一緒に居たメンバーが聞いていたからだ。ヴァルが困っている顔が楽しかった。
「「ラエル!説明!」」
「オリナスは俺をかばってくれたけど、ヴァルに無理やり…」
「!…ラエル!てめ!ちょ、ちが」
セナは俺の足元に来て尻尾で叩いてくる。机の上の食べ物を与えて一緒に楽しく食事をした。
***
「まじで舐めてた、ラエルさ、ウチを舐めてるだろ。」
そう言って並走してくるヴァルだが、俺は全力で走っているのに、まるでジョギングの様に付いてくる。やはりマナが漲りだすと相手にならない。
「聞いてんのか?ラエル!」
「ハァ…ハァ…、ヴァ…ル…は、お淑、やかにして…いると綺…麗だよ。」
「………」
固まって黙るヴァルを後目に汗を流しに行く。
恐らく多人数は難しいだろう。少数かつ油断している状況を作らないと勝負にならないなと考える。…強くはなったが、自分の道の狭さが見えた気がした。
***
俺の性質上、索敵系に向いていると判断した団長はそういった任務を任せてくる。
もちろんヴァルとセナが一緒に同行しての物だが、もう複数件の任務を終わらせて、女性への恐怖を気力が上回ったと自負していた。
こうして傭兵団での日々は2年が過ぎて、俺は12歳になった。
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