第30話 居場所

「今回の任務は5名で行う。ヴァル任せるぞ。」


「了解、団長。…じゃあ行こうか。」


緊張する。

俺の力が役に立つのか分からないからだ。

ヴィに跨りヴァルが先導してくれる。


「緊張してるな。どうする?やめるか?」


「いいんだよ。ラエルは役立ってくれてるからね。」


二人が気遣ってくれる。

雑用だけで1年以上も置いてもらっている。皆からは少し距離を感じるのは男だけが理由じゃないはず。

団長に俺は自身を売った。でも何もされていないし、その気配もない。

腫物扱いになるのは分かっていた。でも俺の居場所はここだ。…自分の居場所は作るしかない。


「ヴァルもオリナスもありがとう。二人は…」「そういうのいいから、任務前は特にいらない。」


「ラエルってお礼出来るんだね。でも、それじゃあ足りないから部屋に来てよ。」


「オリナスの事は嫌いじゃないから、任務に失敗したら行くよ。」


「ヴァル、死んで?」


「……お前を殺すわ。」




***


「護衛だよ。最近この辺りは物騒になった、カレアとアセルスの戦争が長引いたからな。」


依頼してきたのはカマイラの商人だ。ここからスプマティ領まで護衛する。魔獣よりも賊が危険なのだと、予定では3日の道のりだ。





俺は活躍できた。魔獣の気配を誰よりも早く察知し、何も言わずに前に居るヴァルへ球を渡す。


渡す仕草をした時点でヴァルは魔法の用意を終わらせて後は投げるだけの状態。

何度目かの魔獣撃退で皆が褒めだす。決めたのはヴァルだけど。

他にもセナの嗅覚で安全な道を割り出したり、野宿する場所を決めたりとかなり順調に進んだ。


寝ずの番に俺は選ばれないが、俺とセナは眠っていてもいち早く魔獣を察知し起きる。


「本気でさ、舐めてたわ。ラエル、ずっとウチんとこに居ろ。」


「ラエル、一緒に居ようぜ。いいよね!ねえ!」


「…オリナスさ、外でマナ漲らせるの止めない?」


――――クウゥ―――


「はいよ、飯ね。…流石に少し吠えるんだ。」

セナから認めてもらったのかと思い撫でに行くが。

「いてぇ!なんでだ!」

相変わらず触らせてもらえない。いや頭だけは触らせてもらえない。

機嫌がいいと背中は撫でれるのだが。


すげえなとヴァルが褒めてくる。俺以外は触れないと。…実は懐かれている?と思っていると尻尾で顔を叩かれた。

オリナスがそれもラエル以外されてないと言っている。やっぱり舐められてる?



***


スプマティ領に到着して商人と別れる。任務は完了した。

数日程滞在しようと決まった為、ハニエの屋敷に向かった。

屋敷の門の前には以前の門番がいた。俺はカツラを外してハニエに取り繋ぎを頼むとそのまま中に案内された。顔パスだった。


「久しぶり、会いに来たよ。」

ハニエは飛びついてきた。そのままハニエの部屋へ連れて行かれる。


机の上にいた瑠璃も勢い良く肩に乗ってきた。

嬉しさの感情を伝え合った。




「父がもうすぐ、死んでしまいます。」

母が最近は来ていない事と父に瑠璃を会わせた事を伝えてきた。

大丈夫なのかと思ったが、もう喋れないし寝たきりでゆっくりと死に向かっている。

瑠璃と感情の交信が出来ているようで、近頃はずっとハニエから離れない。


――父親が瑠璃に娘を頼んだのかもしれない。


もしそうならいいなと、そうであって欲しいと思った。


「ラエル、様はどんどん美人になりますね。」


「美人って言われるより、格好いいって言われる方が嬉しいかも。ハニエはさらさら、きらきらしていて透き通るように透明で白くて綺麗だ。絵に残したい、かも。」


「……ラエル、さまは、どちらで休まれますか?屋敷で、一緒にどうですか?」


そうだね、瑠璃と一緒にねと言いながらハニエの部屋で眠った。

ベットで後ろを向いて横になるハニエが昔のロシエに見えて抱きしめて眠りについた。


瑠璃がハニエの顔を覗き込んでいる。ハニエの早い心臓の音が俺にも伝わる。


夢見心地の中、瑠璃がしきりに耳を動かしているのが目に入った。

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