第28話 カマイラにて

「ラエル、どこに置いてんの?」


「それは2階の――」


「ラエル、使ってみてどう?頑張ったんだぜ。」


「いや、あれは無理だ。もっと――」


カマイラに着いて2月が過ぎようとしていた。

俺も慣れてきて、雑用は普通にこなせるようになった。







「はいはい、お座り!…ごめんっ!冗談だ!シャレになんないから!」


セナはいつも俺の側にいる。舎弟と思われているのかよく尻尾で叩かれる。

背中に大きい傷跡があり、その部分だけ毛がないが普通に狼だ。

最初は吠えて飯の要求をしてきていたのだが、今はマナを動かして俺だけが感じ取れる合図を編み出した。とことん省エネをしだした。めちゃくちゃ舐められてるよね?


「すげーな、マジで分かんのか?ウチは全然だわ。男を舐めてたけどさ、ラエルやるじゃん。糞から、靴位には評価を上げたわ。」


「……俺はヴァルの事を最初から綺麗な人だと思ってた。今も言葉使いさえ直せば出会った人の中で一番だと思う。」


「……おう…」


いつかヴァルを泣かすと決めている。こいつの言葉を止める方法はただ褒める事だ。今まで話した女性の中で一番殴ってやりたいと思っている。





「行こう、ヴィ。」


ヴァルと一緒に乗っているウーヴルをヴィと呼んでいる。

やっぱりラクダらしくて背中にコブを持つ。ヴィは一コブで団長の魔獣は二コブだ。

コブの中にマナを溜め込み、緊急時は消費するらしい。

俺は乗りこなす為によく跨っている。そして今日も慣れるために騎乗していた。



***


「似合う。少し分け目を変えてもいいかも。」


「ウチは上げてる方がいいと思うけどな。」


鍛錬が終わるとアナベルとヴァルは俺で遊ぶ。

美人だからこそもっと磨くべきと言われたのでされるがままになっている。

二人は幼馴染でよくぶつかるが俺で遊ぶ時だけは非常に仲良く見える。


「――の液はさ、ほら―」

「いいじゃ――ラエルにも。」

「どうする、これ以上綺麗になったら。」

「……やばいか…いや、ウチのやつらが止まんねえか…こっち見んな!」


――ほどほどにして欲しい。



***


「あれだな、武器は持たない方がいいかもな。」

いつもの特訓で団長はそう切り出した。

基本的に武器はミスリルと呼ばれる金属製の物が多い。

マナを通さなくても強度はそれなりで、マナも一応は通るからだ。

高級な物になると芯材はマナの通りがいい精霊樹という木材を使用しミスリルをコーティングした物になる。


ミスリルは重い。男が携帯するには良くない。また、正面からの接近戦ではまず相手にならない。地力が違いすぎるから、身軽にしろという事だろう。






「ラエル、お前の役目はウチにこれを渡すこととヴィの操縦だ。いいな。」


ヴァルは魔法使いだ。どういう魔法なのか説明はしてくれないが野球ボールサイズのミスリルの玉を投げる。…凄まじい速度で飛んでいく。


遠距離での戦いはパチンコサイズのミスリル球のスリングが最も多い。マナを通せないと大きく減速して射程距離が短くなるから。弓なども存在するが、取り回しが良くないためほとんど使われないらしい。


この世界はマナに満ちている。火を起こせば紫色のようになる。マナが通っていなければ抵抗になるのだと思う。鉄製の物はドワーフが使っていた伝説があるだけだ。


「――聞いてるか?あと、その髪どうにかした方がいいな。」


「目立つ?そんなに?」


「今まで黒髪のやつに会ったか?…悪くはないけど、な。ウチらは後ろから援護がほとんどになるからまずいな。」


そうして、女装をさせられてカツラをかぶせられる。任務ではこの姿だと。


――ごめん、アシエ。流石に心が挫けそうだ。


「…なんかウチよりいい女じゃないか?これ。」


「…そんなことない、私の方が…い…い女よ、ね。」


ヴァルとアナベルは勝手にダメージを受けている。これは誰も得をしないような気がする。


「ラエル、凄い。なんなの、まだ好きにさせるの。いい加減にしろ!」


今日のオリナスは長い髪を少し巻いていて服も体の線が出る物を着ていて、すごく綺麗だと思っていたのに、深窓のお嬢様だなと少しときめいていたのに。なんでマナを漲らせて威嚇してくるのか?…オリナスのおかげで女性の恐怖に慣れてきたのが嫌だ。感謝しないといけないのか?


「ほら、俺は胸ないし。3人共ほんと女性として魅力的だから。」


「「「………」」」


「お前はユートになりたいのか?」

通りかかった団長が俺に声をかける。


「よし、そのまま訓練だ。慣れてもらう。拒否はなしだ、いいな。」

左手に杖を持ち今日も走る。

少しづつ自分の道が開けてる。そう信じて。


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