第27話 特訓

今日も走っている。

手にはサークル用の杖を持って。

オリナスが母から貰った杖を改造した。


指関節に装着して結晶を置くと固定される。

より一段とマナの通りが良くなった。


走りながらの魔術は恐ろしく疲れる。

手を振り上げた一瞬で結晶を見てサークルする。振り上げた一瞬のみで決められたデザインを刻む。とんでもなく難しい。だが出来てはいる。


「はぁ?ラエル、本当に凄すぎるんだぜ。いや、冗談とかじゃない。歪ではあるけどデザインになってる。ごめん、意味わかんない。興奮してる、多分。試したいことまだあるの、たくさん。いいよね?寂しかったら部屋に来ていいから。」


前までは品のある女性だと思っていました。俺は見る目がないかもしれない。最近は誰よりも舐め回すような目付きで見てくる。殺意とかマナによる威圧感ではない新しい怖さを体感している。




「がんばっているが、やはり身体能力は大きく劣るな。」


団長が依頼を終え戻ってきた。早速、特訓を受ける。ヴァルが提案した魔術を使いながらのトレーニングはいいアイデアだったらしく取り入れられた。


「団長。このマナ操作が向上する事って意味があるんですか?女性に対して全く意味がないと思うんですが。」


「ラエルは分かってないな。普通に戦えば勝てないだろうが、勝つ可能性は出てくる。」


そう言って、団長のマナの考えを聞いた。

成人女性は魔術具をマナタイトなしでは使えない。生理が訪れるたびマナの器が大きくなり、マナの絶対量とマナの生成量が増える。その為、何もしなくても勝手に強くなってしまう。


デメリットもあり、今まで鍛えたマナ操作の技術がリセットされる。例えるならエンジンが大きくなる為、加速が変わりアクセルの踏み方を一から掴まないといけなくなると言う事だろう。それが約1ヶ月周期で訪れる。大人の道を歩み出した女性は細かいマナ操作が出来ない。力む・全力位しかマナ操作が出来なくなる。


「男だけなんだ、技術を積み上げる事が出来るのは。」



***


全メンバーが揃ったため、セント市を出る事となった。ネア家領内のカマイラという村に傭兵団の本拠地がある。


魔獣を預けている小屋に来た。初めて都市に入った時の小屋だった…そしてあの時のケンタロスがそこにはいた。俺を見て「ぐへへ」と鳴いた。


傭兵団が預けていた魔獣はラクダの様な見た目をしていた。ウーヴルと言うらしい。俺はヴァルと二人乗りをする。そしてもう1匹魔獣が居た。狼だった。セナと皆が呼んでいる。


「セナ。こいつがラエル。お前の飯役だ。守らないと飯無しになるな。」


ヴァルの言葉を理解したのか俺の足元に来て。尻尾で叩いてきた。

思いのほか衝撃を感じて驚くと、俺の反応を見てあくびをした。

今ので格付けが済んだという事だろうか。


21名の傭兵団は全員が魔獣に乗りカマイラへ向かう。

俺はヴァルの後ろで腰に抱き着き乗っていた。


振り向き離れていくセント市を目に収める。

壁はまだ所々壊れている。次がいつになるか分からないがその時には修復されているのだろうか?


そうして竜やレ―ヴァ襲撃の爪痕は消えてしまうのだろう。


俺の中のアシエの気持ちは薄れていくだろうか。

きっと初恋で、僕の世界の全てだった。


もうアシエの僕はいなくなる。

でも俺は忘れない。だから側にいて、左手の結晶から俺を見てて欲しい。


「おい、ちゃんと掴んでろよ。」


――ヴァル代われよ――

―――私の方がいい匂いすると思うよ――

―こっちに乗りなよ。次の魔術なんだけど―


ここは騒がしくて、でも俺の後ろ向きな気持ちを吹き飛ばしてくれる。

強くなろう。次は胸を張ってここに来れるよう。

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