2章 ノワール傭兵団

第26話 僕から俺へ

団長が当分はネア家領内での活動になると皆に伝えた。


ただ、残っている依頼をこなす為といい、半数を引き連れて出て行った。


傭兵団の全メンバー数は20名だった。僕を入れて21名になる。

団長がいない間はヴァルが副団長で仕切りをする。


活動拠点は別にあるようで、今は仮の平屋に滞在している。

今まで会った人の僕を見る目には配慮があった。


…こんなにも居心地が悪い物なのかと感じる位に不躾な視線が突き刺さる。

僕を嘗め回す視線、時に敵意を感じる物まである。

早くも折れそうになる。僕は左手首を握った。

そこにはもう戻らない物が巻き付いている。後悔は逃げる事を許さない。


「あぁー、じゃあ、まずはそうだな。掃除しろラエル。」

ヴァルに従って行動を始めた。



***


「使えねえな、お前。」

僕は役に立てなかった。掃除では段差から落ちたり、そげに刺さったりして、遅々として進まず。料理では魔術具の使い方が分からない為、食材を焦がした。その様子を見たヴァルに呼び出されている。


「で…どうすんの。」


「…すみません。僕に扱いを教えて下さい。」


「はぁ………僕…ね、分かった。オリナス、たのむ。」


「ひよっこ時代は誰にでもあるけど5歳までで終わらそうぜ。ね。」


そう言いながら緑髪の綺麗な人が向かってくる。

傭兵団の人達を紹介された時に一番印象深かった人。

背筋を伸ばして綺麗に座っていた品のある女性だった。

彼女からは不躾な視線を感じない。


「こいつは魔術士だから使い方は何でも聞け。後はよろしく。」


「じゃあ、何からする?」





「ちょっと凄いかも。馬鹿かなって思ったけど。マナの扱いが私の知る限り断トツでぴか一ね!本当に馬鹿だけど。」


知らなかったのだが食材を焦がした時の魔術具はマナタイトを入れるようにできていた。それで一定の出力になるのだが、僕はサークルの要領でマナを流し込んで使っていた。マナがぶれてしまう為、安定しない。当然だった。


「ごめん、面白すぎて。…ダメだ、君の事好きになった。どうしてくれるんだ!」


急にマナを漲らせながら吠え出した。とても美人だと思ってたのに…残念だ。

魔術具はどれもマナタイトを使って使用する事が前提になっていた。

そういえば照明用の魔術具もマナタイトを使っていた。


「それで大体の事が出来るよね?…君、ラエルで合ってたっけ?ラエルなら普通に魔術具を使えるようになるかもね。凄いかも。」




***


「ヴァル、終わらせました。」


「ちょっと見せてみろ……やれば出来るじゃん。この調子な。じゃあ外出るぞ。」


皆は各々でトレーニングをしていた。僕はこの平屋の周囲を走らされる。


「おせえぞ!ウチが8歳の時でもぶち抜いてるぞ。もっと走れ。」


「あれね、ラエルは魔術を使いながら走らすとかいいかもね?マナ操作いいし。」


「!へぇー、ルアワール家向きじゃねぇか。オリナス何か用意しろよ。」


僕をそっちのけで話し合っている。気づけばトレーニングしていた他の人も僕を指さして笑いながらしゃべりあっていた。完全に笑いものにされていた。

時々聞こえてくる。何周でへばるかの声が耳障りだ。




――もういいぞ――

ヴァルのかけ声で倒れこんだ。一歩も動けそうにない。


「あれだな…坊ちゃんだったしな。明日からガチでやろうな。」


「はい…僕は…まだまだって事ですよね。」


「…あのさ、僕は止めろ。ウチが嫌いなんだわ。偏見が入ってるかもしれねえが僕って言ってる強いやつを見たことがねぇ。アシエって子にも僕僕言って甘えてたのか?」


「…俺の事は好きに言えばいい!アシエは関係ないだろうが!」


「じゃあそれで、とりあえず戻んぞ。」


疲労困憊のまま戻ったが当然役に立たなかった。

初日だしなと気遣われながら水を浴びて一人部屋に入る。

横はヴァルの部屋で反対はオリナスの部屋だった。守るためだと思う。


早く傭兵団のお荷物から脱却する事を誓いベットで横になる。

他の団員の声が聞こえる。アシエの結晶を握りしめて目を閉じた。










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