1.5章 私達の宝物
幕間 あの子の忘れ形見
別視点の話になります。
ー-------------------
「バシア!ウィーネ!どう?」
今日は調子がいいのか服を何着も着替えて感想を聞いてくる。
「ソフィ、こんな服あった?…また勝手に…買ったの?どうやって?」
えへっと笑いながらごまかしている。
しかもホワイトシルクだ。スプマティ領にいる糸吐虫に粉末状のマナタイトを餌に混ぜて吐き出させた糸。最高級品で普通には入手できない。
「それは、メーリー様が送ってくださった服だ。…はぁ。」
バシアも溜息をもらしている。またスプマティ家に出向かないと。気が滅入る。
「で、どうしたのよ、急に色気付いてさ。ああ、ガドリ…か。」
最近バシアが助けた男にソフィはぞっこんだ。
ガドリもソフィが気になるような態度をしている。気に食わない。
「バシア。あいつにはもうここに入らせないようにしたいんだけど。」
「なんで?いいやつだけど?男なのにバネア母さんにも挨拶できてたし。…なんかされた?」
「違うけど、なんか髪を長くした方が似合うとか言ってきて、余計なお世話と言うかさ。うっとしいというか。」
ソフィはあいつが今から来ると言い始めて、どの服がいいか聞いてくる。
私達はあいつが来ることを知らなかった。
約束があったのかを聞くと、していないが来るのが分かると。
なぜかいつもソフィは根拠もない事を言う。そしてその通りになる。
…入口が慌しくなってきたのを感じて、バシアは向かう。
ソフィは満面の笑みをしていた。
***
気に食わない。
「あの…さ、睨まないで、頼むよ。綺麗だから怖いんだよ。」
「!…何、誰にでもそういう事言うの止めたら!ソフィもそういうの言われるの好きじゃないよ。」
「ほんとに綺麗だと思ってるよ…あんまり魔流で威嚇しないでよ。ソフィはさ、なんか白くて透明って感じなんだよ。髪は黒いけど。ウィーはさ冷たいけど綺麗なんだよ。…怒んないでよ。」
「………今日、ソフィは休んでるからそれ飲んで帰って。」
「うん、分かった。…なぁ、もう7年位になるのにさ。少しは…怒んないでよ。何を言うと怒るか分かんないんだよ。」
「あんたが…思ってもない事言って周りに嘘つくからでしょ。」
「思った事しか言ったことないよ。」
嫌いだ、ソフィがいつもこいつと居ると笑うのが。
こいつといると楽しく感じるのが…嫌い。
***
「最近調子悪いんじゃない?フーツ薬飲んでないでしょ?ソフィは重たいんだし飲まないと。」
「…違うの。多分子供が出来たの。」
「「!」」
バシアも驚いていた、確かにソフィが遅れていたのは感じていた。けど、まさか。
「なぁ、アリオ家が金の工面を求めてきているんだ。かわりにディムをこちらに寄こすと。」
「……それで、どうするの?」
「ネア家は援助をする。それで私はソフィの子を見守る子を儲けようと思うんだ。」
「バシア…いいの?」
ああと言って笑うバシアの顔を見れなかった。
…貴女が身を引いていたのを私だけが知っているから。
***
「可愛い、ウェネちゃん。ねっ、笑った!」
ソフィの子は流れてしまった。そして体調が一層悪くなった。無理に笑おうとするのを見るのが辛い。バシアは当主を引き受けた。バネア様が負傷してもう立てないから。そして、ガドリも…
「…どうしたの、ガドリ。」
「これを用意してくれないか。頼むよウィー。」
「!こんなの、ダメよガドリ。劇薬よ!」
「大丈夫だよ、ソフィは子供を望んでるから。…このままじゃ俺は役に立たないんだ。情けないけど薬に頼らないと…子供が出来れば心を保ってくれるかもしれない。早くしないとあの子に引きづられて連れて行かれる様な気がして…さ。」
***
「ねぇ、ガドリはどうしてるの?」
「子供の邪魔にならないようにしたいって言ってたわ。ちゃんと食べてね。その子の為にも。」
「…うん、ウィーネもしかして妊娠したの?」
「!…どうして?急に?…まぁいい人が出来たけど。」
「…そうなの…良かったわ。」
「ウィーネ、お前ディムと会っていたのか。」
「えぇ…姉さんの気持ちが分かったわ。私も同じことをするから。」
「そうか…」
ディムは好みでは無かった。でも他に比べてマシに見えたから。
私は自分のお腹を擦る。ソフィの、ガドリの子を守ってと。
***
「ねぇ…お願い、ラエルに乳をあげたいの。」
「ダメよ!それにラエル様も怖がるわ。…無理よ。」
「大丈夫、もう私のマナは…ね。」
「ウィーネ。お願いがあるの。ふふっ、聞いてくれてありがとう。あのね、空があったならこの子はね『広く・遠く・先を』観れたの。どこまでも自由だったの。…でもね、もう空はなくなっちゃったから『狭く・近く・後ろ』しか観えなくなったの。どうかこの子が後ろに引っ張られないように、自由にしてあげて欲しい。お願いねウィーネ。」
***
「……ロシエ、何故ラエル様を傷つけた。言いなさい。」
―すみません、にーに。どうな…ったの。ごめんなさい。ごめん、なさい。
なんで、こんなにも私の子は役に立たないんだろう。
ごめんねソフィ、ガドリ。私達の宝物を傷つけてしまった。
***
「ご報告がございます。バネア様からです。」
「ラエル様の件ですか。続けてください。」
「ラエル様は引き続きネア家にて保護するとの事です。ご本人の希望もありカレア家への帰還は未定との事、心配はいらないと。それとネア・アシエは亡くなりました。……以上です。」
バシアはまだ帰ってこれない。アセルス家はバリオール家と繋がっている。間違いなく。王国を滅ぼす必要が出てきた。
カレアを侮っているのか。
ここはリエルラ様の起こした聖なる地、いかなる敵も滅ぼすまで。
ラエル様を思い浮かべる。あの喋り方はガドリとそっくりで。
あれがきっと私の…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます