第25話 ずっと一緒
「ハニエ、ありがとう。また来るよ。」
「うん、来てね。絶対。」
別れを済ませて僕はメルメさんについていく。
イアナとの間にどういうやり取りがあったか分からないが、僕はノワール傭兵団に入る事が出来た。
傭兵団はネア家周辺で活動をしていた。
残りの仲間はセント市に滞在中らしい。イアナと一緒に向かう。
行きと違い舗装された道を進む。イアナは何も言ってこない。
僕も話しかけたりする事はない。
「どう強くなりたいんだ?…正直、男は女に身体能力では太刀打ち出来ないからな。私が教えられるのは、ある家の鍛錬方法だ。男を鍛えた事などない。それでもいいんだな?」
「はい、何でも、してみたいです。少しでも強くなれるのでしたら…」
「…分かった。男が戦っている姿が想像出来ないので、手探りになる。…いいな。」
「よろしくお願いします。」
傭兵団の3人から感じる威圧感はイアナよりも小さい。
僕自身の第一目標として、何があろうと女性に対して怯えない。そう決めた。
敵意や殺意を受けて自分に負荷をかけ続ける。
あいつらに、怯えない為に。
「美人、今日からは私がお前をしごく。いいな。」
「はい、ヴァルさん。改めまして、僕はラエルです。よろしくお願いします。」
「………まぁ、今はいいか、それとメルメは団長と呼べ。いいな。」
「はい。ヴァルさん。アナベルさん。団長。お願いします。」
「…固いなぁー、アナベル。呼び捨てで。私達は全員呼び捨てね。戦いでいちいちさん付けは遅いから。」
「はい、アナベル。」
うん、いいねと言って僕の事を聞いてくる。
カレア家の内部事情はできる限り隠しながら話していく。
「へぇー、カレア家の男の子はそうやって育てられるんだ。自由ないね?」
「なぁ、ペットみたいじゃね?ラエルはよく耐えれるな、ウチは無理だ。」
「………アシエがいたから…」
「「………」」
「…お前らは…ほんとに…はぁ。」
***
朝日が出てすぐに出発した。日が沈む頃にセント市が見えた。
全員何も食べず、持っていた水を飲んだだけだった。
舗装された道を歩いた。足が痛かったがただ歩き続けた。
都市に近づくにつれ、壁が所々壊れているのが見える。
そして、門を潜った。
時計台があった場所で大きな焚火をしていた。
限りなく黒に近い紫色の火が燃え上がっていた。
火を見たイアナは膝を着いて泣き出した。
「ラエル、あれは亡骸を燃やす火だ。都市の中央で行うんだ。きっとアシエもあの中に居る。」
僕も膝を折った、崩れ落ちるように力が抜けた。
アシエの死に顔が見たかったのか、分からない。ただ、もっと綺麗な火で送ってあげて欲しかった。屋敷で一生分の涙を流したと思っていたが、まだまだ足りなかったみたいだ。
ぼやけて映る紫の火を眺め続けた。
「では…よろしくお願いします。」
そう言ってイアナは引き上げて行った。振り返らずに。
僕は傭兵団の皆がいるという宿へ連れて行かれる。
「新入りのラエルだ。お前らが無茶苦茶しないよう、ヴァルに付いてもらう。ちなみにだが、許可なく何かがあれば間違いなく死ぬと思え…脅しじゃない、私は手を下さない。だが…そういう事だ。以上。」
最初は浮足立っていた人たちも団長の最後の言葉で冷静になっていった。
僕も軽く挨拶をしたが、目を向けると皆逸らした。ただ、視線を向けていない時は見られているように感じる。
***
「ラエル、これを。」
「…報酬だったんじゃ。」
「これも確かに価値はある。だが、これだけの為に依頼を受けるほどの物ではない。…アシエの覚悟に突き動かされた。これのあるべき場所は私の所ではない。…お前の覚悟も良かった。だから渡す。」
「あり…がとう…ございます。」
アシエの結晶を受けとり、ネーナの家に来た。
ネーナは僕の無事を喜んでいた。
「今日だけはアシエの部屋に泊まっていいですか?」
玄関は仮修復がされていた。
家の前には何人かの気配があった。マナ量で魔士のようだと感じた。
アシエの結晶を見て、抱きしめる。
そして杖を取り出す。
アシエの魔法陣に重ならない様に僕の魔法陣をサークルする。
結晶の中には僕とアシエの魔法陣しかない。
プレゼントを受け取った時のアシエの顔が思い浮かんだ。
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