第23話 いつかの海の色
抱き上げた生物は非常に愛らしい見た目をしていた。
兎の様な耳にオコジョの様な姿、体毛は麒麟を思い出させる空の様な青。
額の結晶は角みたいだった。濃い青で光が反射して瑠璃色を思わせる。
――俺が見たかった海の色。
流れ込んでくる感情に変化があった。
恐怖や恐れが弱まり、代わりに困惑のような感情が伝わってくる。
僕が助ける決意を強くする程に困惑の感情は伝わってくる。
こちらの感情も読み取っているのか?そんな気がする。
服の中にこの子を隠して森から出ようとした。
警戒の感情が伝わってきて、木の陰に身を隠した。
森の外では僕を探している女性が居た。入ったところを見られていたのだと思う。
迂回して気づかれないように立ち回る。
人の接近をこの子は感じ取り警戒の感情を強くする。僕もマナの気配を感じ取り、最初に寝起きした部屋まで戻ってきた。
アシエのポーチには傷薬と包帯の様な物が入っていた。
この子に効果があるのか分からない為、少しだけ傷口に塗った。
強い不快感を伝えてきたが、僕の助けたいという感情も読み取ったのか、収まっていく。
塗布して少し時間を置き、この子の反応を見た。
不快感が和らいだのを感じて治療していく。包帯を巻いてベットに寝かせた。
―コンッ―
ドアをノックする音が響く。
咄嗟にこの子を抱えてベットに潜り込んだ。
「ラエル様、お食事の用意がありますが…レウラムは下がって。」
ハニエ様は一人で部屋に入って来て、後ろ手でドアを閉めた。
「ラエル様、何をお隠しなのでしょう?」
マナ量がすごいため、気配に敏感な人なら気づくかと思い、寝たふりをしていた。
「…先ほど森に入られましたね。それは知っています。もしかして幻獣が居るのですか?」
隠せない、そう思い。暴力を行使する事を考えていると否定の感情が流れてきた。
…この子は僕を引き留めてくる。
観念した僕は逃がす為全力で時間を稼ぐことを決めた。
「ハニエ様、お願いです。怪我をしているんです。どうか治るまでは…」
そう言ってベットから出てこの子を見せた。
出方を伺い、後は流れのままにと。
「まさか⁉――嘘ッ!!」
ハニエ様の顔が赤く染まり、感情を表に出さなかった顔が大きく崩れた。
「――で不可侵の森には入ってはならないとありますが、普通の人は入れません。咲いている花が拒むんです…あれは竜の力だから、竜が入れないようにする。そうして森の生き物を守っています。初めてです。初めて見ました。それもカーバンクル。スプマティ家でもカーバンクルを見たという記録は残っていません。それなのに――」
めっちゃ喋る。その勢いに押されて何を言っていたか所々聞き逃した。
「とりあえず、ええと…治るまでいいかな。」
「もちろん!治ってからもずっとここに居て欲しい!カーバンクルは絶滅したとされているんです!」
「本当に誰にも言わないで、お願い!絶対ろくなことにならない。間違いなく。」
「はい…母…は何があろうとこの子を捕まえようとします。何一つ情報は出しません。」
ご飯を頂いた後ハニエは部屋へやってきた。
あまり来ない方がいい、この子の存在がばれると告げると、カレア家を守るのもスプマティ家の義務で、僕と同年代だからこそ世話係として側にいると皆に言ったみたい。
本当はこの子を世話したいだけではと思うが…
笑顔でカーバンクルを眺めているので黙っておくことにする。
数日が過ぎ、少しだけアシエの事で冷静になった。いや、開き直った。
今更戻っても…僕がここにいた方がアシエの心配も減るだろうと考えるしかなかった。
カーバンクルは僕の膝の上に居て、マナタイト結晶をかじっている。
感謝の感情が伝わってくる。そして僕は心が癒される気持ちで結晶を齧っているのを見ている。
…非常に困惑した感情が伝わってくる。僕の感情が理解できないようだ…
この子の名前は僕が【瑠璃】と名付けた。
ハニエも瑠璃ちゃんと呼んでいる。女の子なのかな?
瑠璃はマナを含む物を好み、光源用に使用する予定のマナタイト結晶をあげてみた。
「ラエル、様、マナタイトたくさん持ってきました。」
「うん、ハニエありがとう。」
僕達は敬語はやめようとなったが、ハニエは様をつけさせてと言ってきかない。
ちなみに年齢は僕の1つ下の9歳だった。気づかない内に僕も10歳になっていた。
そうして二人で瑠璃を世話している。瑠璃は直りが早く。もう普通に動けている。
だけど僕の側を離れない。
そして助かっている。ありのままの感情を伝え合うのは気が楽だ。カレア家の人以外にずっと心を隠して気を張っていた僕には。
「すごい!また、瑠璃ちゃん!」
ハニエは大変喜んでいる。
瑠璃は結晶を出す。非常に綺麗でマナの伝導率が恐ろしく高い物を。ただ…
――――!――!!
瑠璃からは汚いという感情が流れてくる。捨てろと言う強い拒否感が。
この結晶は瑠璃の便で、まぁ、うん、便は側に置きたくないという事だと思う。
ただ、僕はこれを集めている。見た目はとんでもなく綺麗でサークル用としても最高の物だ。
瑠璃からは距離を置かれるが。
今日のハニエは少し表情が硬い
「ラエル、様、我が家の事を聞いてもらえますか?」
そう言って話始めた。
スプマティ家は不可侵の森を守る存在で、カレア家により任されていた。
先代の当主が海獣を呼び寄せたとして、一時期は家の存続が危ぶまれた。
ただ、不可侵の森に他の家の者が足を踏み入れる事は出来かった為、森の管理は継続する事となり、現在の当主はハニエの父が外圧により任された。
そこに母が来た。幻獣目当てで、母は聖女に憧れてユニコーンを求めていたが、ハニエを出産した後で処女じゃないと現れないという噂を聞いて発狂、ハニエをほとんど監禁状態で屋敷に置いている。全てはユニコーンを求める為、娘を使って。
そう話すハニエは父が好きだと言っている。
幻獣学者を名乗っている父の話が好きだったと。
母が父に薬物を投与していた。
この世界の男性は女性に恐怖して下の反応が悪い、本来は時間をかけて寄り添いあい恐怖を克服していくものだとされているが、ハニエが出来た時も薬物を使っていたとの事。
そして母の家臣と関係を持たせて子を作らせたいらしい。
スプマティ家の不可侵の森の管理者としての地位が欲しい為。
薬物で精神がおかしくなった父は以前の面影などなく、今は寝たきりになった。
端をきったかのように話し出すハニエは母の様には絶対になりたくない。許せないと泣き出した。
僕と秘密を分かち合った事で心を許せると判断したのか。
アシエがしてくれたように抱きしめて頭を撫でた。
瑠璃もハニエの感情を読み取ったのか、肩によじ登り顔をなめて慰めた。
イアナの回復を待ってもう3週間になる。
そんな中、スプマティ家に客が来た。僕宛に。
「ラエル様迎えに上がりました。」
そう言ってやって来た人物に見覚えはなかった。
「アシエからの依頼です。」
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