第22話 運命の出会い
夜が明けてすぐに僕達は動き出した。
目的地は分からない、ただ付いて行く。
イアナの顔色は悪い、左手は力なく垂れ下がり、足も引きずっている。
僕たちの間に会話はない。
そうして、どれくらい歩いたか分からないが鬱蒼と生い茂る森の隙間から建物が見えた。
「ラエ…ル、ごめん…」
先導してくれたイアナが膝から崩れる。
倒れ切る前に察知して何とか支える。身長が僕よりも少し高いが、思っていたよりずっと軽くて、僕でも支えることが出来た。
こんなにボロボロの軽い体で今まで守ってくれていた。
それなのに自分の事ばかりで、今も魔獣が来ることばかり気にしている。このまま置いて走って行こうかと頭をよぎっていた。本当にどうしようもない。
引きずりながら進んで行くと開けた場所に出た。
人工物と思われる低い壁がある。それに沿って歩いていく。
だんだんと森から離れて舗装された道に入る。知らない気配を感じられた。
イアナと似た格好の人が走って駆け寄ってくる。
僕は女性を恐れている。だがこちらに敵意がないのは分かる。
駆け寄ってきた人はイアナの部下だった。
そのまま引き渡し、座り込んだ。もうとっくに限界で、瞼を閉じた。
***
―――だから!――
騒がしい。
目が覚めた僕は、知らない部屋のベットの上に寝かされていた。
――――いわね!――
現状を把握しようと、嫌な気配と金切り声のする方へ向かう。
「分かったわね!返事は!…遅いのよ!使えない!」
耳障りな声を発しながらマナを漲らせてどこかへ向かう女性と下を向いている女の子がいた。
女性は話しかけられる雰囲気ではなかったので、女の子に近づく。
僕の接近に気づき、ゆっくりと顔を上げた。
――綺麗な子だった。黄金の瞳と白銀の髪を持つ透き通るような神秘的な子だ。
一瞬だけ惚けてしまったが、我に返る。
現状を知るのが先。アシエを迎えに行くのが一番大事。
「ラエル様ですね。スプマティ・ハニエと申します。」
声も綺麗だ。所作も。
「ハニエ様。助けて下さりありがとうございます。門の前で力尽きたのは覚えているのですが、仲間はどうなったのか教えていただけますか?」
「イアナ様は現在治療中です。命に大事はないかと。他のネア家の方もいらっしゃいます。」
命に別状はないと聞きほっとした。
ハニエ様は僕と同年代だと感じたがすごく気品がある。少なくとも姉より。
「セント市に戻りたいのですが。」
「すみません、私ではどうにもできず。母…はその、すみません。」
さっきの言い争いは恐らく母親だったのだろう。この子と話ながらマナを漲らせていた。
…なんとなくこの子との関係性が見えてくる。
ネア家の人達の元へ案内して欲しいとお願いした。
「ラエル様、隊長を支えて下さりありがとうございます。」
さっき駆け寄ってきてくれた女性だった。あいかわらず大人の女性はマナ量が多い。
僕は襲撃を経て少し女性が怖くなくなった。
本気の敵意、殺意を受けて、僕への悪感情が無い人を感じとれるようになった。
女性の見立てでは、イアナは指が欠損していたがそれ以外は大丈夫だと答えてくれた。ただ1月は安静にしないといけないと。
僕は戻りたいと言った。女性はイアナが回復するまで待って欲しいとお願いしてきた。
――焦る。アシエはどうなっているのか?
ラナが事前にスプマティ家に応援を要請していた。受け入れてくれる準備はあるようだった。
カレア家の傘下がネア家とスプマティ家で、古くからの仲なのも影響している。
セント市は今も混乱状態のようで、襲撃は僕達だけでなく都市全体にあった。
こちらに応援が来れる状況ではないと言われた。
イアナがアシエから預かっていたポーチを受け取る。
アシエの手作りのポーチには、傷薬と包帯、投げ残ったマナタイト結晶とサークル用の杖が入っていた。
「ラエル様、出れません。迎えが来るまでお待ちいただけますか?」
後ろから女性を連れたハニエ様が声をかけてきた。
気づけば僕の足は門へと向かっていた。何も考えずに歩いていた。
何と答えたか覚えていない。夢遊病のようにあてどなく門以外の出口を探した。
屋敷の裏手には森が生い茂っていた。
木々が魔の森よりも明るい気がする。立札があり、不可侵の森とあった。
立札には『立入禁止』『許可なく立ち入れば重罪に処す』とあった。
少しも躊躇うことなく入っていく。
***
魔の森と雰囲気が全然違った。色とりどりの花がそこら中に咲いており、敵意の様な刺す感覚がない。誘われるように奥へ進んだ。
川があって水が透き通っている。
この世界で初めて川を見た。せせらぎを聞き、心が楽になる気がしていた。
すぐ側の木の根元にはキラキラした生物がいた。
…恐ろしくマナ量の多い生物だ。強い気配を放っている。
生物は非常に小さかった。放つマナは乱れていると感じる。
静かに近づき、覗き込んだ。
居たのは額に結晶を生やした生物で、本で読んだカーバンクルと特徴が似ていた。
ただ、弱っているのか、近づいても横たわっていて反応がない。
触ってみると苦しさと怖さが流れ込んできて、とっさに手を放した。
――まるで魔法の様だ。
再度触れる。不安と恐怖、不快感が流れてくる。
触診する様に横たわるこの子を診ていくと、より強く不快感が流れてくる箇所がある。そこは怪我をしていた。
自身の感情を伝える事が出来るのかと結論付けて抱き上げた。
抵抗するためにより強い恐怖と不快感と拒否感が伝わってくる。
このままではこの子は亡くなってしまうと思った。
無力を感じていた僕はせめて腕の中で傷ついているこの子だけは助けたかった。
自分の為だった。
アシエの元に戻りたくても戻れない、せめてもの行いだった。
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