第21話 無力


――坊ちゃま。

眠いよ、もうちょっと。


――起きてくださいよ。

引っ張ってよ。


――もう行っちゃいますね。

どこへ?


『坊ちゃま、ずっとお側に居ります。』



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「――アシエ!」

ここはどこだ?…森?


「アシエ?アシエッ!」


「ラエル…ごめん。」


イアナは目を逸らして語った、アシエから僕を連れていくように託されたと。

周りには魔獣の死体があった。

あれから、3時間ほどが経っていてこのまま森を突っ切る予定だと。


「戻る!アシエの所へ!」


僕の宣言を聞き静かに向かってくる。

そのまま片手で首を掴まれ持ち上げられた。


「クソガキ!お前が行っても何も出来ないだろうが!お前のために命を張ってたんだぞ、アシエは!ずっとだ!今更、気づいたのか!あの子は覚悟していたぞ!」


「――ぐぅ――がァッ――」


引き剝がせない。空気が吸えない。苦しい。そして…イアナの怒りを受けて怯む自分が情けない。

あぁ…知っているさ、いつだって僕の盾になろうとしていたから、僕の理想のヒーローだったから。


――浮遊感を感じて…意識が…くそ…っ…


イアナは泣いていた。血を流しながら。左手はだらしなく下がっていて、一指し指は無くなっていた。



***


暗い。最初にそう感じた。


「静かに。」

横からイアナの声が掛かる。今も目を開いているのか分からない程の暗さだ。


「ここは?どこ?」


「魔の森。樹の下のグリベアの巣を使っている。お前はずっとうなされていた。」


「…………」


「男は役に立たない。まぁ、特に子供には酷な話…アシエはもう…」


座った体勢のまま、横から耳障りな音を出すこいつに全力で拳を振り切った。見えないが声の出どころに向かって。


――衝撃は伝わったが、全く効いた様子はない。僕も効かすつもりで殴ったわけじゃない。

ただ、グダグダと喋るこいつの口を止めたかった。


「…騒がないって事は現状はわかるね。」


「僕らを襲ってきたあいつらは何者だ?見たことのない装備で、魔法使いまで居た。お前らが来ないように足止めまでして。」


「一人はクリフォトの棍を持っていた。あれは普通には手に入らない、それに魔法使いは【不可】だった。考えたくはないけど、あれは…聖女。」

イアナはブツブツと感じた事を言葉にして自身の思考に沈み込んでいった。


イアナの呟きと襲撃の都合のよさに違和感を覚えていた。

(足止めは何のために、アシエを確実に仕留めるためじゃない、僕が狙い?でも必死さを感じなかった。竜の襲来で壁は一部崩壊した。外から好きに侵入出来る状況になった。竜もやつらが呼び寄せた…誘導した?そういう術があった?)


「竜もあいつらか?」


「…そうかもしれない、狙い…いやカレア家?最近の報告はそれ?」

僕の分からない情報がある。考えを終わらせて溜息をついている。

――イアナは聖女と言った。レ―ヴァ教だ。


「…どこに向かっているんだ?」


「多分もう少し、もうスプマティ領には入った。」

そう言った後、静かになった。



僕は眠れない…アシエは?それだけが僕の中を渦巻いている。

竜のおかげか分からないが体の調子はいい、だけど今だけは元に戻りたい。そうすればマナ枯渇ですぐに意識を失えたから。


今も目を開いている。見えるのは暗闇だけだ。

目を閉じると見えてくるのは、瞼の裏にこびり付いたアシエの面影で。


…夜が明けるまで暗闇の中で目を開いていた。

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