第20話 僕の…

ピクシー人形が玄関に置かれている。

現在はネーナさんの家のリビングで寛いでいた。


ラナはお菓子を持って様子を見に来た。



カレア家の動きがおかしいらしい。

軍を複数に分けているとの事。

今までのカレア軍の動きではないと。


ラナは自身の考えと軍の動きを教えてくれた。

「つまりはまだまだ長引きそうってこと?」


「そう。何故分けたかは分からないわ。ただ、領内でレ―ヴァ教が動きを活発化させてるという情報は上がってきている。それの対処かもしれない。」


「今の相手ってアセルス家ですよね。」


「そうだけど…元々きな臭いのよ。レ―ヴァ教は。」

レ―ヴァ教か、僕は特に近づきたくない。左手の件…竜人の疑いができた。





話を切り替えてネア家の話をする事にした。


「バネア様は大丈夫ですか?」


バネア様は発見された。屋敷の地下に居て出てこれなかったようで、死ぬかと思ったと言っていた。怪我をしていて療養中だ。


「そこまでの怪我ではないから大丈夫よ。ただ、ご高齢でもあるし無理をしてもらいたくはないのだけど、こんな状況では…あのイアナでもさぼらないで働いているから。」


――カタ――カタカタ―――


ピクシー人形が震えだす。

「また?…ハァー、ちょっと出てくる。最近多いわ。」

魔獣が来ているようで人手が足りずにラナが対応している。


「坊ちゃま。外には出ませんように。」


「分かっているよ…」





***


(何だ、凄く嫌な気配がする。)


―――カタカタカタ――カタカタカタ――



…今まで見たことが無い程ピクシー人形が揺れて音を立てている。


「何か変だ⁉アシ…」「坊ちゃま!こっちへ!」


焦って僕を引っ張るアシエの後ろから異様な気配を感じた。


炸裂音と共に玄関が吹き飛び、顔を隠した3人が現れる。

――マナ量が凄い…あとなんだこの感覚?敵意?殺意?


アシエは僕と荷物を持って窓を突き破り走る。大声で助けを叫びながら。

引っ張られて走らされながら襲撃してきた相手に振り向く。


窓際で留まった一人はアシエの背中に掌を向けている。

威圧感が凄く、姉が魔法を使った時と似た雰囲気を感じる。

嫌な予感から腕を強く引っ張った。


アシエの左膝が外側へ曲がっていくのが見えた。人体の構造上、曲がらない角度へ。


「―――――あぁっ!」

アシエの悲鳴が響く。



倒れ込みそうになる中、追いついてきたもう一人は黒い棍棒を持っていた。

それを横に振り切る。アシエの背中と僕の首に届くように。

アシエが躱すと僕に当たる様に。


僕を抱きしめながら回避できず吹き飛ばされる。空気が抜ける音がアシエの口からした。


吹き飛ばされた方向からはラナとイアナ、数人の女性が叫びながら走ってきている。



――ッ!―――――

――早く!――頼む!――

――――エ!――――――エル!


僕は動けない。初めての暴力と相手の殺意、マナの威圧感に。アシエの覆いかぶさる力は僕が震えている事を自覚させる。


ラナ達へ相手の魔法使いともう一人が足止めに向かった。


僕に覆いかぶさるアシエは小声で「大丈夫、大丈夫」と気遣う。

…涙が止まらない、僕は震えているだけ…ただ抱えられるままで…


アシエの肩越しに、棍棒を振りかぶっているのが見える。


「――――逃げろっ!」


「立って!」


ラナ達が叫んでいる。僕は荷物の中からマナタイト結晶を手当たり次第に投げた。

棍棒を持つ手に当たり、狙いが背中ではなく曲がっている足へ。



「―――ッツ―――――アァァッ―――」


耳元で絶叫が響く。

――僕のアシエッ!僕のアシエを!


「――立てっ!早く!」


ラナは何とかこちらに駆け寄り棍棒女を蹴りで牽制した。

女は下がりながらも余裕の雰囲気を出している…笑っている。

血を流しながらイアナも駆けつける。



「……、イア…姉…ぼっちゃ…を…」


相手を視界に収めながら声を聞き入れたイアナが僕を担ぎ上げる。

アシエから引き剥がされまいと抵抗する僕の顎を打った。


…意識が…落ちる…暗くなっていく僕の瞳はアシエだけを写す。

血の涙を流して息も絶え絶えなアシエが呟いた気がした。



「坊ちゃま…いつもお側に…」

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