第15話 ドキドキする
「アシエ!お願い!絶対よ!」
「アシエ頼む!本当はもっと人をよこしたかったが、信頼出来る者は限られる。」
「お任せください。いつもと変わりません。ただ坊ちゃまに尽くすだけです。」
「…出発よろしいですか?」
僕はもう席についている。普通に馬車なんだと思っているとラナさんは馬に餌をあげた。
血が滴る肉を、夢中で食らいついていた…僕の知る馬ではない。
***
ラナさんが御者をしてくれる。
5日程の道らしく点々とする村で泊まる。その手配も終わっているみたいだ。
緊張を和らげるため、凄く気安くしゃべりかけてくれる。
時々呼び捨てにしてしまうのだが
「さん付けは言いづらいと思いますので、ラナでいいですよ。」
そう言って親しみやすく接してくれた。
滞在予定のセント市は森から来る魔獣を寄せ付けないように都市全体を壁が囲っているらしい。まるで城塞都市だ。どんな魔獣が良く来るのか聞くとキラービットという小さい魔獣が多いという。何か聞いたことがあるような…
補足してアシエが教えてくれる。
「坊ちゃまが使っていた。最初の杖の素材になる魔獣ですよ。」
僕は隠れながら村の宿に泊まった。
フード付きのマントを深くかぶりアシエに支えられて歩いている。
料理も全部アシエが用意してくれる。
「アシエが居ないと生きていける気がしないな。」
眠るときにそう告げると
「坊ちゃまが居ないと、私は死んでしまいます。」
ぎゅっと抱き合って眠る。
アシエは13歳になり、体も成長した。
発育が良くて、少しドキドキする。呼吸がしづらい。
アシエを強く抱きしめると、安心感が勝り僕はゆっくりと眠りに落ちていく。
『んっ、はっ…』何かが聞こえた気がした。
出発から5日後、セント市に到着した。
門の様な入り口ではなく森の前の小屋に向かう。
乗っていた馬車から降りて、運んでくれた馬の様な魔獣の背中を撫でる。
「ぐへへへ」
変な声だが、喜びを伝えているとの事、種族名はケンタロスだった。そして雑食、
基本的にこの魔獣がポピュラーなのかと思ったら、貴人を運ぶ用だった。
戦場等ではタチドリという魔獣を使うとの事。
小屋の中に入ると地下通路があった。そこを通って都市に入る。
「門を通らないんだ?」
「ラエル様は尊き方…顔を見られないようにね。」
「坊ちゃま。行きましょう。」
アシエと手を繋いでゆっくりと歩く。
僕の体調を気遣うように速度を落として。
地下を抜けて別の小屋の中にでた。そしてドアを開けて外に出る。
都市の裏通りに出たようで、多くの声がする方へ歩き出す。
セント市の中は賑わっていた。建築物のデザインが西洋風であった為、かなり親近感が沸く物が多い。
「建築物や服飾、食事などもドワーフが伝えたとされています。ユートの数ある功績の一つですね。」
「ドワーフは物作りの天才だと…ただ大っぴらにはダメ。レ―ヴァ教が居るから。」
ラナともかなり話をした。アシエの親戚で姉のような存在だったようで僕の知らない甘えるアシエがいた。僕がラナとばかり話していると、アシエは僕に小さく
「ダメですよ、ユートになっちゃ。」
そう言いながら凭れ掛ってきた。嫉妬かなと感じて嬉しくなる僕。このやり取りを繰り返していた。
都市の大通りを歩くと一番目立つ建物に時計があった。12針の時計を見て一瞬ここは俺の世界なのかと錯覚する。今が夢で俺が現実で、だけど倦怠感を感じて違う事を悟る。
この体が煩わしい、貧弱で、体に引っ張られる形で心の在り方も弱くて。
「坊ちゃま、いつでもお側に居りますから。」
アシエは前を向きながら僕に語り掛けてくる。
――すごいな。ちょっと落ち込んだだけなのに分かるんだ。
握っていた手をより強く握り込んで並んで歩く。
通ってきた村々でも思ったけど、男を一人も見ていない。
十分の一位の割合で存在するはずの男性はどこにいるのだろう。
遠くからでも見える屋敷にたどり着いた。
カレア家本邸の方が大きいなと思いながら案内されて入っていく。
体が休息を求めている。しんどい。
ラナの案内に付いていく。疲れから下を向きながら歩いていた。そして立止まる。
「ようこそセント市へ。」
女性の力強い声が掛かる。
前を向いた僕は後悔した。今まで感じた中で一番のマナ量だった。油断していた。
震える僕に気づきアシエが前に出ようとする。
――俺が引き留めた。
「お招きいただき誠にありがとうございます。滞在のご許可もいただけました事感謝申し上げます。」
僕が感謝を伝えると、雰囲気ががらりと変わる。とても柔らかい雰囲気の女性になる。
「えらいね。ちゃんとお礼が言えるなんて、しかもとんでもない美人さんじゃないか。いいよ、いくらでも泊まっておいき。」
キョトンとした僕の顔を見て、女性とラナは笑った
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