第14話 戦争の足音
戦争が近づき、カレア家は慌しくなってきた。
屋敷の入り口には新しくアーティファクトが置かれている。
檻の様な物に入った妖精の人形だ。【ピクシー人形】という見たまんまの物だ。
とても悪趣味に見えるそれは、悪意あるマナに反応してカタカタと動くらしい。
防犯装置の様な物だ。
なんでもコレクターがかなりいるようで一つとして同じ妖精の姿の物はない。
そのため、必死に集めるのだとか。
屋敷に置いている物はコレクター価値的には微妙な為、安価で購入できたらしい。性能に差はないとされている。
「坊ちゃま。これでより安全になります。」
「アシエ。女性の気配なら僕も大体の位置が分かったりする。母もウィーネも来るって感じ取れるんだよ。」
「男性はその辺りの感覚に優れているみたいですね。」
「じゃあ、僕が見張りになろうかな?」
「坊ちゃまの言う通り、見張り役は男性に任せる事もあるみたいですよ。よほどの人出不足じゃなければしないですけど。」
戦いで僕にも出来る事はあるのか…
***
『―――ですが』
『――ダメだ―――だ』
『―――――分かり――た』
『頼む。』
『命に代えましても。』
母とアシエがドアの前で話をしていた。
「坊ちゃま、よろしいでしょうか?」
アシエは真剣な表情で部屋に入ってきた。
戦争が起こる。そして領内での戦いになる可能性が高い。
カレア家は僕をここに残さない判断をした。もしもの時は守れないからと。
ぞろぞろと人も連れていけない、僕の存在は知られないようにしている。
理由は分からないが良くないことなんだろう。カレア家にとっても…僕にとっても。
付き人はアシエだけで先代当主の居るネア家に向かう事になった。
よく知る都市だから大丈夫ですよと。
僕自身の心配はしていない、アシエと居れば大丈夫だから。
皆の方が心配だ。
母はもちろんの事、姉やウィーネも参戦する。
妹がどこにいるか分からないが、大丈夫ですよと言われる。
本当にロシエの事が分からない。今どこで何をしているのか。
出発は10日後と言われて、準備を行う。
アシエからもらった最初の杖は置いていく。
母からもらった杖、空のマナタイト、それから姉の魔法陣が刻まれたマナタイトも持っていくことにする。
僕の準備はすぐだった。8歳、もうすぐ9歳になるが荷物はこれだけ。
アシエは着替えなどの日用品を用意してくれる。
「ネア家、魔士のラナと申します。10日後にラエル様、アシエをセント市へご案内します。」
魔士の方が挨拶に来てくれた。
すごいマナの量だ。今まで皆はすごく気を使ってくれていたが、これからは知らない人達に出会うことになる。
横にいるアシエの服を無意識の内に引っ張り、心の支えにしている事に気づいた。
…服から手を離す。俺はこんな後ろに隠れるダサい男になっていいのか?違うだろと自身を鼓舞して前に出る。
「…ご挨拶痛み入ります。ご案内いただけること厚く御礼申し上げます。」
僕の扱いは不明で、姉が僕の存在は非公式になっている発言をしていた。
それなのにラナさんは僕を様扱いしている。
正直分からないが、侮られない様に発言を心掛けたい。アシエもいるからより守ってもらうため胸を張って目を逸らさずに言った。
「…はい…いえ…どうぞよろしくお願いします……久しぶりだな、アシエ。大きく、綺麗になった。」
「ラナ姉さん。魔士になったんだ。」
アシエとラナさんは知り合いの様だった。
ラナさんの後ろで大きなマナが揺れ動く。
「…立派な受け答えを…こんなに大きくなって…ラエル!」
ラナさんの後ろに控えてた母が少し泣きながら抱き着いてきた。まるで今生の別れの様に。ラナさんが小さく「竜結晶?」と言っている。
「…こんな息子なんだ。頼みます。」
母は盛大に泣いている。
「…はい、いえ、承知いたしました。ですが、その、出発はまだ先になります。」
「…………」
「…………」
「坊ちゃま。ご挨拶も終わりましたし、部屋へ戻りましょう。」
アシエが小声で催促してくる。女性の空間にいる僕に気を使っている。
母とラナさんが何とも言えない顔で見つめあっているのを後目に部屋に戻った。
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